« 2007年8月 | トップページ | 2007年10月 »

2007年9月

2007年9月28日 (金)

東大の役割とは~東大総長懇から

先週の金曜日に、東京大学総長と報道機関との懇談会がありました。半年に一度ほど、若い記者も論説委員も参加するものです。総長懇というけれど、役員やそのすぐ下の担当教員も控えていて、マスコミ側は30人くらいかな。さすが東大総長懇、という集まり方です。前回は役員が担当テーマごとに順番に話したのに対し、今回は基本的に小宮山総長が全部、やりとりをして。質問が細かくなったら担当者の出番だったのでしょうが、某役員は「想定問答も作って準備したのだけど、僕の〜については質問がまったく出なかったな」とちょっと残念そうでした。

一般紙さんからの質問は、9月入学とか学士(学部卒)の学力評価の厳格化とか、文科省や中教審で議論されているテーマが目立ちます。大学全体の問題を社説などで書くのに、小宮山東大総長の発言を入れよう、という思案があるのかもしれません。でも、前にも感じたのですが、こういう大学全般の、つまり平均的な大学であれば関心事になるテーマは、小宮山総長はお好みではないんじゃないかしらん。受け答えが雑なわけではないけれど、「興味がないんだよね」というのがにじみ出ている感じです。確かに、地方・小規模大学からは「東大は以前は日本の全大学のリーダーであると自覚していてくれたのに、最近は自分たちのことしか考えず、その結果、(日本においては、ですが)一人勝ち状態だ」と言う不満が出ています。それに対し、「大学の国際競争時代に、東大が世界の知のトップクラスに食い込むためにどうすべきかを真剣に考えると、他大学の面倒まで見ていられない」というのが本音ではないかと思います。

東大が日本や他大学に及ぼす影響としては、この懇談会から出た話を元に私が書いた、26(水)付1面トップ「東大が2030年構想 国際競争力ある大学100社創出 5兆円投資必要に 現状の2・5倍 政府・他大学に提言」がよい例なのではないでしょうか。これは、「2030年に今の2・5倍の5兆円を高等教育に投資すべきだ。すべて国の資金で手当できるはずはないが、一つは相続税を大学寄付に回す税制改正で1兆円、いまは300億円しかない企業からの共同研究費で1兆円、それぞれプラスできる」という提案です。いま、大学は「もっと金をくれ」コールが激しい。ある程度は共感できるけれど、本当にどこにいっても何を聞いても、「要はお金なのね」と感じてしまう。この提案ももちろん、要はお金ってことですが、ただ求めるだけでなく「個人や企業から2兆円をひねり出すよう、考え方を変えましょう」といっているので、へえって関心しました。私は8月に寄付や基金の記事を書いていて(ブログをご参照)、これらの手法で東大が他大学より積極的なのを知っていたというのもありました。

週末なので他紙が先に掲載するのではと心配したのですが、総裁選関連のニュースでいっぱいだったこともあるのか、数日あとの弊紙水付まで持ちました。紙面は月火とあったので、休日デスクに「一面の囲み(小さめの読み物の扱い)で急ぎお願いします」とプッシュしたのですが、「そう急ぐ話ではないのでは」といわれて却下されちゃって。この話っておもしろくないの?? 結局、「東大が〜をする」という話でも、「資金は〜する、と大臣がいった」という話でもないから、急いで書くニュースとはちょっと違う、という判断だったようです。あと、会見の紙プラスパーティでの立ち取材(総長のまわりは他紙の記者でいっぱいだったので、ほかの役員数人から集めた)という状況のため、内容があやふやだった(水掲載に向けては、他資料からのデータなども折り込んでしっかり仕立てた)から。最初は却下の理由が分からなくて、今回の記事に少しタッチした弊社部長級3人に聞いちゃいましたよお。他紙がすぐに書かなかったのもこのためでしょう。

この話、総長のアイデアで東大役員会で議論してきたのだと、パーティで役員から教えてもらいました。だから、かなり本気で社会に訴えていく気なんだな、提言としてちゃんとしているんだな、と判断したのです。それから企業出身で東大教員になったある人がいっていたことも影響したかな。東大は他の大学とまったく違う面がある。社会的な問題を議論した時、「じゃあ、同級生のあいつが○省の審議官でいるから、ちょっと呼び出して飲むか」ってなる、って。なるほど、たしかに他大学では難しいアプローチですね。平均的な大学ではない、資産や運営費交付金も恵まれて一流の学者がそろっている大学だからこそ、大学人の知を生かした、こういうシンクタンク的な役割を果たしてほしいと思います。

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年9月25日 (火)

慶応大の連載と共立薬科大

「未来への先導 慶應義塾」と題した連載記事を、日刊工業新聞の3面で18日からスタートしました。いつもは企業研究をしている連載で、大学を取り上げるのは初めてです。主執筆者は論説の方で私はサブ(私は日々の大学面ニュースの担当があるけれど、論説はもう少し悠々とした立場から記事を書くから)ですが、21日(金)付の「共立薬大との合併 “薬”連携へ膨らむ期待」は私が執筆しました。

共立薬大は小規模単科大なので、一般にあまり認知度は高くないですよね。でも、薬剤師を養成する私立薬科大としてはリーダー格で、歴史もあってプライドが高いのです。なにしろ、薬剤師国家試験の合格率が89%で、81大学(国立薬学部も含む)のうち3位ですから。…といっても、実は私もそれまで、一般の人と同レベルの知識しかなかったんですよ。だから取材時に、「そうなんだ〜」と関心することしきり、で。それで、その新鮮な驚き(大学担当記者としては、あまり威張れませんが)をぐぐっと濃縮して、導入部を書きました。

ここで、合併・統合を結婚に例える手法について、ちょっと迷ったのです。理由は、記事でよく使う手あかの付いた表現だから、というだけではありません。両者のうち、規模や格が下の方を女性になぞらえ、「吸収される=お嫁に行ってアイデンティティがなくなる」という意味合いが、込められがちだから。でも今回は、「かなりよい家柄のお嬢様が片思いをした。自分の気持ちに正直に、(お嬢様であっても)自分から声をかけて、結婚にこぎつけた。彼が気に入ってくれた理由の一つは、薬学という彼にはない知性を、彼女が持っていたから」という形になります。だから、そういう書き方なら現代的かな、と思って使うことにしました。それに共立薬大は少し前まで女子大だったので、今だって女性が圧倒的。それに比べれば男性が多い慶大との組み合わせなので、この表現は問題ないだろう、という判断もありました。…男性記者だとここまでは考えないでしょうね。私が女性なので、ちょっと気を回した次第です。

それにしても、企業研究に替わる大学研究の第一号として、なぜ慶応大なのでしょうね? って私が聞いているのではダメかしらん。「そりゃあ、やっぱり慶大でしょう」と、早大卒(他マスコミと同様、弊社も早大卒が多い)の複数の幹部がいったのですが、早大では人数が多すぎて興味を引かない、ってことでしょうか。慶大は早大に比べて人数が少ない、でも結束力が強くて、銀行や商社などの経済人を輩出しているから、記事としては注目されるのだろう、と想像しています。私はあと社会貢献(TLOやベンチャーインキュベーション)の執筆を担当、連載自体は連日で20回程度を予定しています。大学面ではなく3面ですので皆様、見落とさないよう、よろしくお願いいたします。

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年9月 6日 (木)

今年の概算記事は苦労しました

今年の文科省概算要求の取材は苦労いたしました。参議院選挙があったし、政府のシーリングが出るのが遅くて。他省庁・他新聞を含め、例年なら5月くらいからぽろぽろ記事が出てくるのに、今年は見あたらなかったでしょう? とくに文科省は、情報が漏れ出ないようにという伊吹大臣のにらみが強いとかで、どこをまわってもガードが堅かった。「いったい、いつ取材・執筆に動いたらいいの? その合間を縫って、貴重な夏休みを取らなきゃいけない(いけない、ということはありませんが、笑)のに」と悩む日が続きました。

結局、抜いたのは24日付一面柱「ポスト知財本部事業 地域・大学連携に力 文科省来年度から」と、27日付一面トップ「戦略的大学連携を支援 国公私立超え共同研究 知財管理や教員研修 文科省、運営全般対象に」の2本でした。大学連携というキーワードが共通していて似ているのに、発刊日としては連日の一面(金と月)というのはどうかと私も少し思いました。でも、雰囲気をつかむ取材や関連委員会の傍聴などは春から取り組んできたものですし、要求額もともに50億円と大きいので、やっぱりどちらも一面というのはうれしいですね。記者レク(発表)は29日夕方。一般紙は「よーい、どん」の感覚で、レク資料を基に省内を回って新規施策記事を書いてきました。でも、締め切りも人員も厳しい弊社が、一緒に並んで走っても無理なので、私は31日付大学面のまとめにエネルギーを集中。「08年概算要求 大学・産学連携施策 文科省・経産省 『地域』と『人材』に焦点 独自性ある連携推進 奨学金で人材流動化」を掲載です。見出しの最後に挙げた新規事業は、博士学生への経済支援なのですが、初夏に教育再生会議が提言した学生の流動性向上を意識して「他大学からの進学者が多い大学を採択で考慮する」というもの。再生会議の後も注目してきたテーマだったので、少し意識して書き込みました。

本当はあと2つほど、「もしかしたら抜けるかも」というテーマを持っていたんです。「ここの担当課の課長なら、少し面識があるから、もぎとれるなか」と思ったのですが、「課長は夏休みで」との返事。え〜っ。出てくるのは記者レクの当日、とのこと。分かりますよ、課長の立場としては。「省内の調整も終わったことだし、あとはレク後に対応するのでいい」とお考えだったのでしょう。課長としては。でも記者としましてはねえ。その上の局長にもアプローチしましたが、自民党への説明などで飛び回っているらしく捕まらない。課長の下の、面識のない課長補佐や企画官にもアタックはしてみました。でも、私も情報が不十分だったので、断ってくる相手を説き伏せるほどの手は打てませんでした…。

概算ものはテーマの分類やら数値やらがすごく分かりにくい。そのため、情報が不十分では本当に動きが取れない。例えば、科学技術振興調整費による新規の人材育成事業があったのですが、振興調整費だけ財務省との調整手法が他の予算と違うのです。そのため、レクで出てくる概算要求一覧では、振興調整費の大枠の中に潜り込んでいて「これが新規事業です」とは明示されていない。けど、別の冊子をずうっと見ていって「これは何?」と気づいて、担当課にいくと、ちゃんと資料はあって「新規事業30億円」と公にしていいというんですよ。それから、大学の国際戦略本部強化事業(継続事業)も、活動は大学知的財産本部事業の中で展開されるのに、知財本部事業そのものは今年度で終了することから、いつのまにか別の事業と一緒のグループに区分けされていたりして。

それにしてもポスト・知財本部事業は、これまでの知財本部事業とはかなり違う形になるんですね。5年間、助成を受けてきた43校の多くが「この後ももう5年程度は、我々の育成のための予算が出るだろう。大学単独予算では、まだとても独り立ちできないから」と思っていたことでしょう。それが、「地域・大学連合で」ときて、43校の継続という形はなくなったわけです。一流大はともかく、中堅大は厳しいんじゃないかなあ。これについてはまた、取材に動いていきたいと思います。

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2007年8月 | トップページ | 2007年10月 »