東大の役割とは~東大総長懇から
一般紙さんからの質問は、9月入学とか学士(学部卒)の学力評価の厳格化とか、文科省や中教審で議論されているテーマが目立ちます。大学全体の問題を社説などで書くのに、小宮山東大総長の発言を入れよう、という思案があるのかもしれません。でも、前にも感じたのですが、こういう大学全般の、つまり平均的な大学であれば関心事になるテーマは、小宮山総長はお好みではないんじゃないかしらん。受け答えが雑なわけではないけれど、「興味がないんだよね」というのがにじみ出ている感じです。確かに、地方・小規模大学からは「東大は以前は日本の全大学のリーダーであると自覚していてくれたのに、最近は自分たちのことしか考えず、その結果、(日本においては、ですが)一人勝ち状態だ」と言う不満が出ています。それに対し、「大学の国際競争時代に、東大が世界の知のトップクラスに食い込むためにどうすべきかを真剣に考えると、他大学の面倒まで見ていられない」というのが本音ではないかと思います。
東大が日本や他大学に及ぼす影響としては、この懇談会から出た話を元に私が書いた、26(水)付1面トップ「東大が2030年構想 国際競争力ある大学100社創出 5兆円投資必要に 現状の2・5倍 政府・他大学に提言」がよい例なのではないでしょうか。これは、「2030年に今の2・5倍の5兆円を高等教育に投資すべきだ。すべて国の資金で手当できるはずはないが、一つは相続税を大学寄付に回す税制改正で1兆円、いまは300億円しかない企業からの共同研究費で1兆円、それぞれプラスできる」という提案です。いま、大学は「もっと金をくれ」コールが激しい。ある程度は共感できるけれど、本当にどこにいっても何を聞いても、「要はお金なのね」と感じてしまう。この提案ももちろん、要はお金ってことですが、ただ求めるだけでなく「個人や企業から2兆円をひねり出すよう、考え方を変えましょう」といっているので、へえって関心しました。私は8月に寄付や基金の記事を書いていて(ブログをご参照)、これらの手法で東大が他大学より積極的なのを知っていたというのもありました。
週末なので他紙が先に掲載するのではと心配したのですが、総裁選関連のニュースでいっぱいだったこともあるのか、数日あとの弊紙水付まで持ちました。紙面は月火とあったので、休日デスクに「一面の囲み(小さめの読み物の扱い)で急ぎお願いします」とプッシュしたのですが、「そう急ぐ話ではないのでは」といわれて却下されちゃって。この話っておもしろくないの?? 結局、「東大が〜をする」という話でも、「資金は〜する、と大臣がいった」という話でもないから、急いで書くニュースとはちょっと違う、という判断だったようです。あと、会見の紙プラスパーティでの立ち取材(総長のまわりは他紙の記者でいっぱいだったので、ほかの役員数人から集めた)という状況のため、内容があやふやだった(水掲載に向けては、他資料からのデータなども折り込んでしっかり仕立てた)から。最初は却下の理由が分からなくて、今回の記事に少しタッチした弊社部長級3人に聞いちゃいましたよお。他紙がすぐに書かなかったのもこのためでしょう。
この話、総長のアイデアで東大役員会で議論してきたのだと、パーティで役員から教えてもらいました。だから、かなり本気で社会に訴えていく気なんだな、提言としてちゃんとしているんだな、と判断したのです。それから企業出身で東大教員になったある人がいっていたことも影響したかな。東大は他の大学とまったく違う面がある。社会的な問題を議論した時、「じゃあ、同級生のあいつが○省の審議官でいるから、ちょっと呼び出して飲むか」ってなる、って。なるほど、たしかに他大学では難しいアプローチですね。平均的な大学ではない、資産や運営費交付金も恵まれて一流の学者がそろっている大学だからこそ、大学人の知を生かした、こういうシンクタンク的な役割を果たしてほしいと思います。
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