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2008年10月

2008年10月31日 (金)

日刊工業新聞の科学技術マンガ

日刊工業新聞で最近、楽しみにしている記事(?)は、月曜日の先端技術面に掲載の科学技術マンガ「キラリ 研究開発」です。ご存じですか? 理系・女性漫画家の「はやのん」さんが、研究開発にかかわる現場に出かけていって、はやのんさん自身が主人公としてマンガに登場し、分かりやすく技術を紹介するコーナーです。新技術の大学研究室に行ったり、応用物理学会の取り組みを紹介したり、科学技術館の立体ドームシアターの実体験をレポートしたりしています。

連載前に「どんなかな」と思っていたのと違った印象がいろいろありまして。まず、マンガというわりに、文字が多い。まあ科学技術を説明するのだから、当然ですか。でも、その文字だらけの状況がちっとも気にならないのが意外です。当然ですが、記事ほど文字だらけではないからでしょう。それからマンガの絵が、よく工夫しているなあと感心します。「ベテランの研究者が次世代の人材育成をサポートします」説明するコマでは、黒髪や茶髪っぽい若い人が駆けだしている後ろの方で、髪が薄かったり白かったりする年長者が手を口にあてて応援していたり、手を振っていたりしているのです。新聞記者はテレビの記者と違ってどうしてもビジュアルにうとくって。「原稿、一面のトップで大きく使いたいのだけど、何か絵や写真はない?」とデスクにいわれて、つい「うーん、この話だと難しいですね」と即答してしまうのですが、(せっかく大きく扱うための写真で声をかけてくれたのだし)もっと頭を柔軟にしてイメージ写真など考えてみるべきですね。

それからはやのんさんが、実際の感覚のままにびっくりしたり、知らないことを恥じたり、慌てたり、カワイイうえにちゃんとオチもついている。私は新聞の記事とブログとで、このへんのことをかき分けているけれど、はやのんさんは一体型という具合でしょうか。

このはやのんさんをひっぱってきたのは、科技部の若手記者でした。「こんな人がいるよ」と聞いて、取材としてお邪魔したところ、書ける場を探している、と持ちかけられたとか。「記者はどこへでも出かけていけるのが一番の強み」と昔、いわれました。記事対象としてぴったりの相手ばかりではなく、ちょっと違うかな?と思う相手でも興味を持って会いにいくと、思わぬ展開になる可能性があるんですね。

ちょっと残念なのは、ご自身が物理出身なので物理系のネタが多いこと、かな。まあ我々も、例えばバイオ担当記者がエレの記事を書くというのはけっこう辛いので、あまりいえませんが…。それから掲載が月曜日なので、新聞休刊日などと重なって、けっこうお休みが多いこと。今、切り抜きを見ていて気づいたんです。次回は12月1日だということを…。スミマセン。少し間が開きますが、12月からぜひ、みてみてくださいね。

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2008年10月24日 (金)

「TLOってうまくいってないんでしょ?」

パーティなどで初対面の人に言われて、うれしい言葉は「記事、読んでますよ」です。さらに「~の記事、おもしろかったですね」は、「いつも読んでいる」状況に【上乗せ】した誉め言葉なので、さらに元気づけられます。これに対してがっくりくるのが、「○○ってうまくいっていないんでしょ?」という発言です。○○には「大学改革」「産学連携」、個別テーマでは「大学発ベンチャー」「TLO」など、何でも入ります。もちろん発言者はこの分野に詳しくはない(少なくとも私よりは)のに、名刺交換して30秒後に、そういう否定的な言い方をされるとむっとしちゃいますよね。どうしてああいう言い方しかできないんでしょう…。

その意味で、「うまくいかないでしょう」といわれ続けて苦節10年、ともいえる(笑)技術移転機関(TLO)の記事を上中下で書き始めました。24(金)大学面の「激変TLO スタートから10年」です。「TLOって日本では今、どうなっているの?」というのは、かなり多くの産学官連携の関係者が感じていることでしょう。

(上)は「成功事例あと一歩」。冷たい世の中(笑)に対して「これでもTLOは、全然うまくいっていないっていうんですか?!」と迫るため、東北テクノアーチが脳トレで06年度だけで10億円獲得したのとか、東大TLOが技術移転対価として持っていた新株予約権の関係で04年度に25億円得たのとかを紹介しました。それらがTLOの明るい話題としてあまり広まっていないのは、「TLO事業の本来の収入ではなかったから」と当事者が控えめで、吹聴していないからなのです。でも「もう少しPRしてもいいのでは? 少なくとも、『うまくいっていない』と発言することが、知識人の証と勘違いしている人を相手にする時は」というのが私の感覚です。

皆様、初対面で自分があまり詳しくない分野の専門家とお話することになったら、ぜひ、こう口にしましょう。「~は最近どうなのですか? あまりうまくいっていないって、書いてあるのをみたのですが、~さんの分析ではいかがでしょうか」って。これなら初対面の印象もいいですし、世間の平均的な見方(うまくいっていない、一辺倒)とは違う具体的な情報もくれるでしょう。次のよい展開につながっていくことは間違いなし、です!

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2008年10月17日 (金)

10月からの新連載二つ

10月は4月ほどではないのですが、紙面リニューアルのチャンスです。日刊工業新聞の大学面では、21(火)付から「産学官連携 第2幕へ」が始まります。産学官連携の各大学共通の体制整備は、5年間の知財本部事業で終了。これからは各大学が自身の特色や社会の期待を、どう位置づけて取り組んでいくのかがポイントです。文部科学省の「産学官連携戦略展開事業」の採択案件を、支局記者に大いに参加してもらって連載していきます。

一足先に始めたのは同じ火付けの「変革期の大学発ベンチャー 日本型確立へ」の第2部「サポーターの助言」です。大学発ベンチャーを支える会計監査法人や社会科学系研究者、米国でインキュベーションを経験した人などに登場してもらい、応援と注文を出してもらいます。こちらは原則、私が一人で書きます。VCなど金融機関も、ブームに乗っただけのところではなく、しぶとく応援してくれているところを取材しようと思っていたのです。ところが今回の世界危機は衝撃が強すぎて、「大学発ベンチャーどころじゃない」って反応かもしれない…。でも、「上場が適したベンチャーもあるけれど、上場しなくても意味があるベンチャーもあるのでは。投機対象ではない、大学発というベンチャーの特徴は、何?」というのが、私の注目点。だからこの考え方を取材先にぶつけるには、今はちょうどよいチャンスなのかもしれません。

「ブログよブログ。この(へんの)世界で一番、がんばっているのは、だあれ?」「それはもちろん、佳世子さんですよ」「そおお? そうよね~。ノーベル賞に引き続き、社の表彰事業の実務仕事だ、シンポでのアテンド役だ、金付大学面の記事が足りない、火付スタートの新連載のカットはどうなった、一面に回った記事には表作成の注文がきた、あれやこれや…。でもね、私、誉められると木に登るタイプなの。ブログ、誉めてくれてありがと。じゃ、また来週ね」。

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2008年10月10日 (金)

ノーベル賞の【知の連携】

08年ノーベル賞の日本人4人受賞は大変な騒ぎになりましたね。各マスコミがこれだけ華々しく扱って、さてブログとはいえ署名の記事で私は何を書きましょう? うーん…、そうだ、【連携】だ!!

産学連携にしろ大学にしろ、昨今のキーワードが【連携】なのは周知の通り。では、ノーベル賞はどうでしょうか。まず物理学賞の素粒子研究ですが、益川敏英氏、小林誠氏は性格的にも違うタイプだし、長期にわたる研究仲間という感じではない。むしろ、ある時期にたまたま接触があって、そこで集中的に議論する中で、双方の知の相乗効果が引き出せた、という感じでしょうか。それから20歳年長の南部陽一郎氏の(最新のというより)確立された論文から多くのものを吸収した、と聞いて、「学術の世界では、短期的なものにまどわされない研究成果が、次の世代に引き継がれていくんだ」というのを実感しました。

化学賞の蛍光たんぱく質は、知のつながりというかバトンタッチの重要性がもっと端的に表れていますよね。なぜなら、下村脩氏の研究成果は、オワンクラゲの蛍光たんぱく質を見つけたこと。数十万匹のクラゲを採取したなどという粘りはもちろん、すごいと思いますが、下村氏の研究だけでは社会的には価値のあるものにはならなかった。それが共同受賞者の2米国研究者によって、使いやすい研究ツールになり、一般社会に貢献する多くの研究を後押しすることになったわけです。その後の二人の研究者があってこそ、下村氏の研究は格段に高い価値を持つようになったのです。

それに論文(や特許)という形式知には、知を形にして残すことで知をつなげていくことができ、たいへんな発展の可能性を持てるのだ、ということも実感しました。私としては、「個々人に属する暗黙知の方がかっこいいじゃん」と思っていた面がありましたので(笑)。産学連携の応用研究にしろ、ノーベル賞の基礎研究にしろ、科学技術を発展させるのには、多くの人の知やノウハウの【連携】が重要なのですね。

日刊工業新聞でも連携の大切さは今回、ものすご~く感じました。科学技術部は4月に異動した仲間が多かったので、「科学技術部史上最強メンバー」を吹聴するものの、実は私を除くと全員が「日本人ノーベル賞受賞は初体験」。でも、当日は前任の担当記者、デスク、部長、それに論説委員も予想以上に大勢、駆けつけてくれて。弊紙を特徴づけるチッソやタカラバイオといった企業の話(蛍光試薬を実用化している)が入ったのも、化学業界の担当者&キャップ経験者が動いてくれたからです。一般紙に比べればかかわる人数ははるかに少ないはずですが、決して見劣りしないよい紙面になりました。本当、連携のたまものです!

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2008年10月 3日 (金)

【私たちの税金】による国の事業~中間・事後評価について

文部科学省・知的財産本部整備事業の事後報告書の発表を受けて、「大学の知財・産学官連携(上)(下)」を9月26日、30日付で書きました。でもこれ、書きにくかったなあ。というのは、中間発表の時には各大学の相対評価でA~Cが出たのに、今回は絶対評価で、どの大学のどの項目も「概ね十分に達成されている」が並ぶ、という具合だったから。Cが付いてしまう機関のことを考えると、「皆の努力が認められた方がいいから、横並びっぽいけどまあ…」と関係者は感じるのかもしれませんが。

国のほかの事業でも、最近は中間評価でA~Dなどランクを付けて、それに応じて後半の予算配分にプラスマイナスを付けることが増えています。ところがそれに比べて、事後評価にはあまり関心が高まらないのはどうしてでしょうね。「いずれにせよ終わっちゃったんだから」という感覚でしょうか。5年間の某大型プロジェクトの、4年目くらいに取材に行ったとき、省内の某課長が「(中間評価が悪かった)あの機関も、逃げ切りだな」といっていて、「肝心要の課長が(それより上の立場では、実務の実際は分からないだろうから)そういう言い方というのはちょっと…」と思ったことがあります。でも、研究開発の事業など、最終年は本当に【まとめ状態】。それを考えると、中間評価時点で、その活動の全体像を見るというのはある程度、妥当なのかもしれません。

今、中間評価年度で私が興味を持っているのは、文科省の「先端融合イノベーション創出拠点の形成」事業です。1件あたりの予算は国の助成と参加企業の負担が、当初は3億円ずつ。中間評価後に事業対象を絞り込んで、年5~10億円にアップさせるというすごい規模です。絞り込みは3分の1としていたけれど、どのグループも必死で本気だし成果が出ているから、「落とされた3分の2のグループも、もう一年がんばって再提案してもいいよ」と変更になりました(8月19日(火)付大学面で掲載)。実際、私もシンポジウムに出席してネタを多数、ゲットし、支局に回しもしました。ちなみにこの事業、数年前に私が一面トップで抜いたので、気持ちがこもってしまうというのもあります…。

国の事業は【私たちの税金による事業】です。評価は、関係者の事務作業など大変ですが、今の時代に国民の支持を得るには必須のものです。そして、その結果を社会に分かりやすく知らせるのが、マスコミの役割なのでしょう。「事業の事後の話って、スタート時に比べて世間の目を引かないから…」と、思ったときの関係者(記者を含む)の対処法はコレ。 【私たち自身が日々、必死になって働いてる納めた税金が使われている】と思い出すことです!!

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