« 2009年1月 | トップページ | 2009年3月 »

2009年2月

2009年2月26日 (木)

別業務の出張を活用し、記事と相乗効果

いつもと違う業務で一泊出張しました。中小企業の産学官連携事例で、産・学・官の各キーパーソン別々に話を聞く調査です。普段の取材は首都圏大学と大手企業の産学官連携であることが多いので、楽しみにしていたとおり、「ずいぶん違うな」と感じました。中小企業の技術やアイデアが一番、重要で、開発主体も中小企業となる。それに対して、大学は分析や基盤技術を提供する裏方の役割。これらをつなげたり、助成金の応募情報を伝えたり、コーディネート役をするのが公設試なんですねえ。大学の最先端技術での発明が一番エライ、大都市型産学官連携とはまったく違う。今回ひとつだけではなく、別の案件で行った聞き取りと、それから「モノづくり連携大賞」の地域連携パネルディスカッションの司会体験などを通じて、地域の産学官連携の姿を把握しつつあるという具合です。

訪問した中小企業は、JR単線の駅沿いの機械メーカー。「日刊工業、毎日読んでいますよ」と副社長の弁。ブログ読んでくれている皆様のうち、弊紙を「毎日」ちゃんと読んでくれる人はそう多くないでしょうから(嫌みではないですよ~)、「さすが、機械系中小企業における弊紙のステイタスはすごい」と感じました。それから、県の工業技術センターのような公設試に行ったのも、恥ずかしながら初めてでした。通常の取材活動だけだとまわらないところに行けたわけで、主担当以外の仕事を引き受けるのはこういう効果がありますね。

とはいえ、記者たるもの、「そうなんだ~」と思ったことは、すべて記事にするもの。今回の調査のスポンサーに了解をとったうえで、「地域の産学官連携」で読み物記事を書きます。先の中小企業さんからは新製品のネタももらったことだし。さらに今回、産・学・官の3機関取材とは別に、半日時間があいたことから、地元大学の知財本部にも行きました。「ネタ、あるかなあ。このくらいのクラスの大学だと、どうかな? まあ、元々オマケだから、だめでもともと」との気持ちだったのですが、なんとネタが2つも出ました。結局、全部で読み物1本、面トップ1本、段モノ1本、ゴシップは4訪問先全員で4本の執筆を計画する状態となりました。

実は、このところ本来の担当の取材・執筆以外の頼まれ仕事が多くて、気になっていたんです。社内で「記事、ちゃんと書いているのかね?」みたいな目で見られるのは辛い。とはいえ、出張じゃ時間がとられるのは致し方ない…。それだけに、この相乗効果がうれしかった。時間は本当、貴重です。密度の高い仕事を心がけてまいりましょう。

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年2月12日 (木)

今時の大学ブランドに威力はあるか?

学部から大学院修士への進学などの時に、ブランドがよりよい大学へ進学する【学歴ロンダリング】の本を読みました。私自身はO大学の学部からT大学(東大ではない)修士へ進学したので、ロンダリングというほどではないけれど、「2つの母校があるのは仕事上、大いに得をしています」という思いがあるから、気になって手にとってしまいました。

著者はまだ20歳代の企業人とおぼしき3人なのですが、「東大の修士修了が世の中一番、オイシイ。学部では東大に入れない人でも、修士ならかなり楽に入れる。学歴(というか大学名)コンプレックスの強かった私も、これで人生万々歳!」という体験談でした。内容はだいたい知っているものばかりでしたが、表現が極端で激しかったため、「どうしてこんな大きな口をたたけるんだろう」とショックを受けてしまったのです。

ところがそんな話を周囲(大学の状況を知っている記者や大学教授)にしたところ、「まあそんな本があるのは仕方ないでしょう。世の中いろいろなんだから。山本さんが怒る必要なんてないんじゃない?」という具合でした。4、5人に話したけれど、全員がそうだった。なぜ? とここで再びショック。 …それで怒りの構図を一人で考えて、以下のような考えに行き着きました。

まず、怒った内容の一つは「東大生=人生の勝者」と思いこんでいる単純さでした。でもそれは、彼らが単に若くて経験に乏しいから、なんですね。だって、大きな失恋も病気も、身内の問題も、所属企業の経営不安も未体験だもの。大学名と所属企業名くらいしか、人生に影響はないと思っている。それから論調(表現)が激しいのは、ミクシィや2ちゃんねるでこのテーマを議論しているという彼らが、ネット上でのおしゃべり(匿名が多い)そのままを、本にした状態だからなのでしょう。記者の場合、デスクに「こんなこといい切って大丈夫か? クレームがくるぞ」と指摘され、きちんとした文章を書くように育っていくけれど、それとは違う。本の出版も、東大修士への入学も、「昔なら無理だった人が大勢、可能になっている」時代なのですから。

 それでもう一つ、謎が解けました。広告で「○大生で実践する××」とか「△大生が書いた××」とか、なんであんなに昨今は、大学ブランドを強調するのか不思議だったんです。少子化が激しいし、ゆとり教育世代に突入しているし、東大はともかく著名私立大や国立も含めて、入学生の半分はまともな筆記試験を受けていない(推薦やAO入試で合格している)し。今時の大学のブランドを強調すると「昔なら入れなかったんですけれどね」といっているようで、ハズカシくないか? と思っていたのです。だけど、以前と違ってブランド大学を狙える層が、上位から中位に広がったから、一般人でも話題にするし、広告効果が上がったりするのでしょう。

さらにもう一つ気づいたこと。それは皆が無視したこの案件で、私がいらいらした理由です。少なくとも、大学を2つ行って損はしていないから、無意識のうちに、自分の大学キャリアを批判されている気がしたのでしょう。ということは、以下の取材法もやっぱり正解なのですね。相手が気にしていることをズバリ、キツイ言葉で投げかけてみること。相手の反応で「うわさではなくて本当なんだ」と確認する、という手法です。さらに、私の記事で取材先が抗議してきた場合も、「私の記事は大正解だったんだわ」と開き直るようにいたしましょう。

| | | コメント (1) | トラックバック (0)

2009年2月 3日 (火)

先輩記者、大村健一郎氏を悼む

日刊工業新聞社の記者として、もっとも優れた人の一人だったといわれる大村健一郎氏のお別れの会が先日、行われました。60歳、5年ほど白血病を患い、骨髄移植の準備中の急変で昨年末に亡くなられました。

氏がどんなにすごいかというと、今の日本経団連が発足するとき、旧日経連会長だったトヨタの奥田碩氏が、旧経団連会長だった新日鉄の今井敬氏との間を、とりもってほしいといってきた(本人談)、ということでよく分かるでしょう。元々は、日刊の名古屋支社で、超ガードの堅かったトヨタグループからニュースをもぎ取る【開拓者】として名を馳せたようです。私が知り合った40歳代半ばにはすでに財界担当で、その後、フリーになって、各業界のトップ企業の顧問などになり、財界の情報源として珍重されていました。

知り合ったころ、私は「経済記者のイロハを身につけよう」と賢明だった時期でした。それだけに「そんなやり方ですごい仕事をしているんだ?! 皆のやり方を真似しないで一流になることもできるんだ?!」とショックを受けることがしばしば。その後は年に1、2回、ランチをごちそうになって、話に刺激を受けるという具合でした。

1)「トップ人事を抜いたのは約40件。そのうち間違えたのは1件だけ」(本人談)。取材は、ターゲット企業の取引先の幹部が中心で、「次の社長はあいつだよ。間違いない」と聞いたらすぐ、書いちゃう。普通するような、「では次に当事者である企業の現社長や会長に確認を」ということは、しないんだそうです。す、すごく危ないでしょう、普通だと。上司にいったら怒鳴られそうなやり方です。でも、大村流ではいいんです。40件のトップ人事をやって、確度がそんなにも高いんだから…。

2)フリーになってからは、一般にも著名なタレント性を持ったジャーナリスト(筑紫哲也みたいな)ではないのに、収入がすごかった。「大村情報にはそれだけの対価が払われるんだ」という驚きです。

3)記者は群れないで、一人で動くというのを実践していた。お酒もたばこもゴルフもしないのに、年長の経済人をがっちりつかんでいた。「女性も仕事でがんばるためには、男性のノミュニケーションに加わるべきか?」なんて、私のかわいい悩みはすっとんでしまいましたよ。ま、たしかにお酒の力でつながっている(だけの)関係は、たいした関係じゃないんでしょう。「どんなやり方がいいか」すべて自分で考え、判断するべきことなのです。

幸いなのは、体の苦しみが長かったわけではなく、直前まで仕事をしていたことでしょうか。もちろん、家族を含め精神的な悩みはたいへんだったとは思いますが。

実は私は身内を20年前に、突然死で亡くしています。不思議なことに、「ちょっと遠くに離れちゃったな」とは思うけれど、相手と自分の基本的な関係というか、【思い】はちっとも変わらない。「天国で元気にやっているかナ」って感じです。大村さんのこともそんなふうに思うことでしょう。

そしていつか、自分も死を迎える日が来ます。まだ40代だけど、もしかしたら明日、事故で亡くなるかもしれない。そういう緊張感と、だからこそ日々を充実させていこうという姿勢は、身内を亡くしたことで醸成されたのだと思います。でも、そうなったとしても、寂しくはない。大切な人との関係は、死を持って消滅してしまうものではないから。大切な人との関係は、それによって永遠のものになるのだから。

| | | コメント (1) | トラックバック (0)

« 2009年1月 | トップページ | 2009年3月 »