現場を把握しつつ、マクロを語れるジャーナリスト
東京工業大監事を終える技術ジャーナリスト・西村吉雄さんの最終講演を聞きにいってきました。西村吉雄さんはご存じですか? 東工大の末松元学長と同じエレクトロニクスの研究室出身で、博士まで進学して博士号をとった後、日経BP(当時は日経マグロウヒル)へ。日経エレクトロニクス編集長として10年以上の経歴で、その後、電気・電子産業の講演や、MOTや科学技術ジャーナリストでの客員教授などの仕事が増え、東大の正規教員も経験したあと、04年の法人化から東工大の監事をされていました。
ここ10年ほど、共著を含めて年1冊は本を出版する形を続けられているとか。私は駆け出し記者のころからおつきあいさせていただいています。技術の博士号を持つジャーナリストで、早大の科技コミュニケーションなどで学生指導もしながら、社会科学的な文献(本や論文)を活用した調査研究が得意。ミクロもマクロもカバーし、他の人とは違う説得力のある論を張れるところがすごくて、「こんな人はほかにいない」と感じさせます。最近、著作を読み直す機会があったのですが、「10年前に西村さんがいっていたのは、こういうことだったのか。その通りのことが起こっているなあ」と実感している次第です。
今回の講演から、その特異で刺激的な論の一端をご紹介します。カッコ内は私の解説です。
●団塊世代(本人はその少し上)が大学生だったころ、18歳の全人口は250万人で大学生は29万人だった。今は18歳の全人口が130万人と半分になり、大学生数は60万人と倍になった。つまり、今の大学の入りやすさは、かつての4倍になっている。18歳人口のうち学校(専門学校など含む)にいるのは団塊世代の時は2割だが、今は8割になる。
8割もの子供が、勉強が好きで進学しているはずがない。楽しくて収入のよい仕事があれば、大勢が仕事をしているはず。そんな仕事がないから学校にいるだけ。(かつては工場などで若い人の労働力が必要だったけれど、今は不要)。もし大学などに進まなければ、日本は若者の失業者だらけになってしまう。つまり大学は、若者の失業対策として意味がある。
●理工系離れが問題だとか、いい技術系人材が大事だとか、産業界もいうけどそれは嘘。「では、技術者の給与を挙げて、必要な人材をひっぱるのですね」といって、首を縦に振る経営者はいない(今はどの産業でもそうだけれど、優秀なのが少数いればいい、あとは正社員である必要はない、と経営者は思っている)。一流大学は気づいていないだけで、中堅以下の大学では、理工系を出てスーパーの店頭に立つなどの若者が少なくない。なぜなら、産業界が技術系の人材をあまり必要としていないため。
●日本は高等教育への税金投入が少ないという。それは別に問題ではない。税金投入の少ない分は、個々の家計(親)の負担に依っている。それは、個人の判断による資金活用法だ。高い消費税で国の資金を増やし、税金として投入する官僚・政治家主導の国家より、よいと思う。ただ、納税者の大半は国立大学のメリットをほとんど受けていないことを、関係者は心する必要がある。大学生(納税者の子供)の7割は私立大に通っている(研究開発成果が製造業に貢献している、といっても、サービス業をはじめとする全産業中の製造業の、そのまたごく一部しか恩恵を受けていない)。大学は(税金を受けている以上は)とにかく教育。そのことを国立大理工系などはとくに意識しなくてはいけない。
と、こんな具合です。おもしろいでしょう? 評論家か実務家か、どちらかにしかなれないのが普通だけれど、その両方ができる人がいる…。日々の記事執筆で追われる記者も、志としてはこのクラスを狙いたいところですね。
それにしても、今回は「引用」が大半のブログです。記事で「西村さんのように、独自視点を打ち立てるんだ!」と刺激を受けるのはいいけれど、もっと楽に書けるはずのブログでこれですから、情けないですね。ま、私は足元からまず、がんばるといたしましょう…。
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