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2009年9月 4日 (金)

政権交代下で概算要求の記事を載せる意味

新聞の使命は、まず「事実」を報道することだといわれるが、これからの社会の「方向性」を情報発信することも同じように重要だ。とくに、目立たないが「ひょっとして、これからの社会ではこういうことが、大事になってくるのではないか」と感じさせる記事にこそ、意味があると思っている。

8月30日の選挙で政権交代が決まり、役所が策定しリードしてきた概算要求は凍結だ、と民主党がいう中で、文科省・経産省の産学連携関係の概算要求まとめ記事を1日付で載せた。「2010概算要求 産学連携関係 新しい視点の施策続々 基礎研究から双方参画 …… 与党との調整を注視」だ。各マスコミでは、どうなるか分からない概算要求の記事をかなり控えめにしている。その中で、である。なぜか。一つは「白紙撤回といっても、全部を取り下げて来年度予算を新たに考えていく時間はない。不適切なものは大胆に切り捨てるが、必要なものは取り上げる形になるだろう。その事業候補として、どんなものがあるかを記事で知らせることは、意味がある」と思ったためだ。

もう一つは、「事業化できるかどうかは関係ない。本当に白紙で全部、なくなってしまっても、記事にする意味がある。なぜなら役所がリードしたとはいえ、日本の頭脳を活用した審議会や、大学はもちろん多様な企業ヒアリングに基づいて、新しい基軸が提案されているのだ。それがどんなものであり、それに対して自分たち(読者)はどう動くべきかを、考えるきっかけになる」と判断したからだ。

具体的には、産業界の視点を基礎研究段階から取り入れる、新しい形での産学官連携がいくつも出ていることが目を引いた。大学=基礎、企業=開発で、その間をつなぐといった従来型の拡大施策ではない。基礎研究の段階で産学が深く関わることに注目した支援策は、今までなかったものだ。イノベーション創出は、産学でバトンを受け渡していくリニアモデルでは、難しいという判断したのだろう。詳細は記事で見てほしい。私は「そんな発想があるのか」と驚いた。おそらく、私と同様に多くの大学は、このような形での取り組みは、思いつかなかったはずだ。だから、紙面で紹介する意味があると考えた。

今回の文科省と民主党側の関係は、通常の大学と国(多くは文科省)の関係と同じものだ。私が取材先の大学で、好感を持つのは、「こういう取り組みが必要なので、すぐに始める。たまたま、~という施策があるので、応募を検討しているが、採択されなくても実施する」というケースだ。実際にそのように口にした4,5大学は、いずれも産学官連携で高評価を得ている大学だ。「カネをくれるからする」のではない。「必要だと強く信じるから」手がけるのだ。内容と同時にその思いを、社会に伝える記者でありたいと思う。

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