細胞シートの再生医療、リーダーは工学研究者
東京女子医科大学・先端生命医科学研究所で細胞シートの再生医療を手がける、岡野光夫先生の取材に昨年末、行きました。記事は1・7付の先端融合イノベーション事業のまとめに加え、1・24付の社説です。岡野先生、すっごい有名になりましたねえ。日本における医療系のイノベーションの立役者として、政府の注目も大きくて、大型予算をあちこちから得ています。
私が最初に取材にいったのは、20年近く前のこと。まだ熱応答性の高分子材料で、細胞培養皿を試作したレベルでした。「この培養皿を使って細胞をシート状に培養すれば、温度を変えるだけできれいな細胞シートを得られる」という研究成果を、おもしろいなと思いましたが、まさかこんなになってくるとは。今は患者の口粘膜を培養した細胞シートで、角膜再生や食道再生のヒト試験が進んでいるし、この先は多種の細胞シートを重ね合わせて臓器そのものを人工的に作るのが、実際の目標だというのですから。
社説で強調したのは、岡野先生が高分子の工学研究者であるということです。自分の分野で研究成果を出せれば満足、後はだれかが使ってくれればうれしい、として終わるのが普通の基礎の研究者でしょう? でも医療系は病院で日々、患者を治すことに忙しい医師が中心で、新しい医療システムを構築するところまでやってはくれない。だから、岡野先生は、工学の基礎研究者でありながら、「これは自分がすべきことだ」と心を決めて、その実現に向けて邁進しているのです。その点が素敵だし、ぜひ多くの大学や製造業の研究者を刺激したいと思って、社説に書いたのです。
というわけでこの社説、気に入っているのですが、掲載後に読み返しての反省点が一つ。岡野先生が取材で口にしたかっこいい表現を、地の文(コメントを引用するカッコではない文)に使っていて、あたかもそのかっこいい表現が執筆者のオリジナルみたいに見えることです…。これ、「絶対にマズイ」ことではないと思いますよ。インタビューではないので、コメントばかりを入れられないという事情もあります。でも、取材された方としてみては、「ちょっと、なあ」って感じるかもしれません。この内容の社説ですから、オリジナリティーの重視は当然のこと、それだけにこれは失礼だったと反省しました…。
この埋め合わせではありませんがもう一つ、岡野グループの記事を準備しています。グループのキーパーソンのお一人で、これはまた岡野先生とは違う意味で魅力的な人です。記事の形式はインタビュー、相手が実際に口にした表現を、カッコで引用するのを中心に書いていける形式ですから、今度は比較的、大丈夫。そうはいっても一言一句、その通りに書くわけではないので、「私はこんなふうにはいっていない!」とがっかりされないよう、気を抜かずにやらなくてはいけません。
この取材に過程で、岡野先生がかつての東大・鶴田研出身で、同じ時代の仲間に東大の片岡一則先生とか、東京工大の赤池先生とかがいるのに気づきました。かつてバイオ工学をよく取材していたため、それぞれにお会いしていて、いずれも目立つ存在でした。それだけに、「個性派研究者の素地は、やはり研究室で育まれたのかな」と思いました。次のチャンスにはこんなことも聞いてみて、また読者へヒントとなる情報を提供することにいたしましょう。
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