情報提供機関がリリースを出すとき、「しばり」というのを付ける時があります。具体的には、「△の会見を○日に行います。報道は会見以降にしてください」など付けて、報道の動きを「縛る」ものです。具体的には文科省が、白書のように長大な調査資料を発表する時、記者は資料を読み込んで先に調べたり、会見の質問を考えたりする時間が必要なので、設定されます。先に資料は配付します、でもまだ報道しちゃだめですよ、という形になります。
クラブに加盟している各社はこれを守る義務があり、別の記者がこれを知らずに、しばりの解禁日時より先に書いてしまった場合でも、クラブ総会が開かれ、厳しく追求されます。本社の部長名で詫び状を出したり、厳しいときはクラブを使ってはだめ(登院停止)の言い渡しがされたりと大変です。数年前、文科省クラブでも登院停止1週間が某社でありました。
でもね、このしばり、スクープ対象になるような案件では、運用が複雑なのですよ。下手をすると【やぶへび】になって、縛ったつもりが翌日、全紙に掲載されちゃったりすることが起こる。少し前に微妙なA大学のケースを見かけたので、「大学人は知らないだろうなあ、お気を付けて」との思いから、その説明をしますね。
報道機関の間の了承事項として、「トップ人事(と合併)はしばりが効かない」というのがあります。例えば、ある業界記者クラブで「社長交替の発表を明日、します。発表時以降の報道を願います」とB社が連絡してきた場合。これはしばりが効かないので、B社がそれなりの存在感がある社であれば、各報道機関の記者は大騒ぎ(とはいえ各社、自社の動きを隠した形)で情報収集に動きます。現社長など情報を持っていそうな人の自宅へ夜、話を聞きに行く【夜回り】などをして、確証が得られた報道機関が、翌日付に記事を書くことになります。つまり、B社の広報は「しばった」つもりで連絡したことが、【やぶへび】になったわけです。そこで、重要案件はしばりではなくトタ(しばりなし、即記事化OKの意味)というのが基本となります。
もう一つ。「しばり」の申し出があったけれど、クラブ加盟社ですでに独自の取材でその内容を知っているとか、原稿を出稿しているとかいう記者がいると、「しばり解除」の申し入れがクラブの幹事にされます。「しばりは無効だと、クラブ員に知らせてください」という訴えで、これは通ることが多いです。すると上記と同じで、「知っている社があるので仕方ないです、しばりは無効です。ほかにも知っている人がいれば書いていいです。これから取材して書くのもアリです。たいしたことがないと思えば、発表まで待ってもいいですし。各社、ご自由に」という状態になります。重要案件であれば大勢の社が、情報提供機関の意に反して、記事を載せてしまうというわけです。
さらに。これらは普通、「明日、△について発表します」という連絡であり、△の詳細な内容は伏せているのが普通です。新社長がだれか、とかね。ところが、先日の某大学のリリースは△についても載せて居るんですよ。上記のような事情でしばりが解除となったら、報道の各社とも調べる努力もなしに「△が決まった」と書けちゃうわけです。下手したら連絡があった1時間後には、ウエブ版で全国配信~って感じ。記者からすると「ネギしょったカモ」。ヘビにもカモにもお気を付けて。