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2012年5月

2012年5月29日 (火)

キャスターC氏講演から、「記者は個性で仕事をする」

ある理工系大学Aの卒業生ばかりの場で、その大学の教授に就任した、B大学文系学部卒の著名メディア人(記者のちキャスター)のC氏が、講演をするというので聴きにいってみました。どんな発言をする人か、知っておいてもいいかなと思ったからです。内容は、「話が伝わらないのは、相手のレベルが低いのではなくて、受け手と送り手の暗黙知にギャップがあるから」といったコミュニケーションのトラブルのアレコレでしたが、「へえっ」と思ったのは、けっこう口が悪いことでした。嫌みとか皮肉を頻繁に絡ませるのです。「そうそう、年長の記者はきついこというよねえ。うちの社でも団塊世代がバリバリ現役だった時代、驚くような会話が飛び交っていたし、記者クラブでもけんかっぽい動きが、今と違ってあったっけ」と思い出しました。そもそも記者は第三者、客観報道の意識が強いもの。講演会でも、聴衆におもねった話はしない、ということでしょう。

でもねえ。でも、A大学の著名卒業生の悪口とかいわれると、ちょっとねえ。その場で笑いは上がるのだけどね。ご自身の出身のC大学はOB含め、そんなにご立派かしら? って思っちゃう。一般に、身内や組織の仲間内で出る批判は「そうだよね」と思っても、同じことを外の人にいわれると、むっとするものでしょう。反感を持った聴講者も多かったのではないかなあ。この感覚、後で話したA大学OBとか、A大学の学生(感想の又聞き)とかも同じでした。

ところが。一緒に聴いた同業出身者(取材などでA大学をよく知っているが、A大卒業生ではない)は、別に「いやな気はしないよ」という感想でした。なぜかというと、どうも、「外から呼ばれた人なのだから、その組織や集団と異なることを言ったりしたりすることを、求められているんでしょ」ということらしい。そうかあ。確かにC氏が教えているのはA大学の1年生の教養の講座。学年が上がるにつれて、専門性が高まって技術で凝り固まってしまうので、早いうちに幅広い視野を学生に持たせたい、とA大学は考えて、A大学となじまない人を呼んだという面があるのかもしれません。

翻って自分の場合。記者として、相手におもねってはいけないと意識はしているけれど、「批判の前には誉め言葉をいれなくちゃ」とか、考えてしまう方でして…。でも、思い出しました。【記者は個性で記事を書く(仕事をする)】のです。これ、新入社員だった時に、社の研修でいわれた言葉です。「記者の仕事(情報をとってきて記事にする)は、社会通念上、問題ある方法でなければ、どんな方法をとってもいい。相手を震え上がらせて情報をとってきてもいいし、土下座して気の毒がらせて話を打ち明けてもらうのでもいい。それは記者それぞれの個性で考えればよい」というものでした。当時、私は「記者なんて自分に務まるだろうか」と不安だったのですが、この見方は新鮮で「私にもできるかもしれない」と思ったものでした。そう、当時を思えば、今の私なんて、十分に悪口をも言い、きついことも言い…。ホホ、年の功ですわね。これもまた個性の一つと解釈させていただきましょう。

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2012年5月21日 (月)

理系の芥川賞作家、円城塔氏

ちょっと古い話題ですが、23年度下期の芥川賞受賞作家、円城塔氏の話をさせてください。発言が跳ねっ返りで話題を呼んだ、同時受賞の田中慎弥氏の方が俄然、注目されていましたけど、円城氏もなかなかユニークです。いえ、作品(小説)は普通と違う文体・内容なので3ページで読むのを止めたのですが、受賞作が掲載された文藝春秋のインタビューが、おもしろかったのです。ちなみに氏の経歴は「東北大理学部卒、東大大学院総合文化研究科(駒場にある、文理融合みたいな研究科)博士課程修了(=博士号取得)」です。

ユニークさを示す例は、後半に趣味を聞かれて「なんでしょう…手先を動かすことは好きなので…喫茶店で工作したり…スケッチブックを買ってきて、はさみで切ってセロハンテープでつないでメビウスの輪みたいなのを作ってみたり」。さらに編み物と挙がったのでインタビューアが、帽子やマフラーを編むのかと尋ねると「そういう実用的なものじゃなくて、やっぱりメビウスの輪みたいなものを」っていうんですよ。メビウスの輪みたいなものの編み物をするんだ…。この辺は本人も、「自分は変わっている」と自覚しつつの発言みたいなのですが、その前の小説についての部分は「自分は理系の主流だ」という意識での発言のようです。

「ストーリーや登場人物の真理に没入して読むのが小説のオーソドックスのあり方でしょう。(…ただ、)エンジニアをしているような人間が今の日本のメインストリームの小説を読んで楽しいかというと、たぶん楽しくないんですよ(…だから、自分の作品みたいな、普通の小説ではないタイプを書いているのであり、)…文系・理系という区別がいいかどうかわかりませんが、世の中の半分ぐらいはそういう人たちがいるのではないでしょうか」。これはけっこう驚きました。「世の中の半分が理系として、理系はみんな、普通の小説ではない、円城氏の小説みたいな方が好きだっていう話??」って。

理系でも、純粋科学(数学や基礎物理、素粒子や宇宙のイメージ)が好きな人と、生活密着の科学(化学・生物)が好きな人って、ギャップが大きいと常々思っていたのですが、それを再認識しました。円城氏は純粋科学側なのでしょう。私はそうではなくて、やっぱりストーリーや登場人物の心理を、自身の社会生活に重ねて読める小説の方が圧倒的に好きですよお~。

でも、区分けして相手を否定するという態度はよくないとも思っていて、「みんな違って、みんないい」し「学際融合で新しいものを生み出すのも大事」とも思ってはいるのです。ので、円城氏のことを「変わった人だ」と突き放すようなことはこれくらいにしたいと思います。はい。

ちなみに理系出身の芥川賞審査委員の川上弘美氏の、円城氏の作品の選評も、円城氏対抗でユニークです。大学時代の量子力学の授業で出てきた「シュレーディンガーの猫」を引用して書いていて、ほかの審査委員とは違う切り口ですね。で、シュレーディンガーの猫、私も授業で聞いた覚えがあるけれど、何だったっけ。1,2カ月前に研究成果リースで見かけて、ウエブヒットも高いとしって「何だったっけなあ」と思いつつ、無視した記憶が…。私はもう少し、純粋科学に近づく努力をした方がよいですか、ねえ?

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2012年5月10日 (木)

地味に見える学会のユニークな活動

5/4付に「3学会、会員満足度向上 ウェブセミナーや英文速報誌が人気  国際化・若手のニーズ対応」を掲載しました。GWなので長めの読み物記事です。「少子高齢化と団塊世代の引退で、多くの学会は会員数減に悩んでいる。その中で元気のいい学会はどんな工夫をしている?」という企画でした。

最初のきっかけは、二つの「日本社会情報学会」が統合して「社会情報学会」が誕生しました、というニュースが書けたことでした。同じ名前の学会が理工系と社会系で、90年代前半からずっと二つあった、なんていきさつがおかしくて。で、「たまには学会あれこれを集めてみようかな。記事としては地味かもしれないけど、何かしら話題もあるだろう」というくらいの気持ちで、3学会のまとめを考えました。

そうしたら、その後に訪問した2学会も、それなりにユニークな話題が見つかりまして。高分子学会は、ウエブセミナーを昨年、始めて。企業事業所へ配信するので一回に1000-1500人の受講というのを、年10回開催、とのことでした。ちょっと遠慮して、収入金額自体は聞かなかったけど、学会の事業収入としての魅力も大きいのだといっていました。応用物理学会は国際化思案で、人気の高い総説を英語化してウエブで無料で読めるようにしたそうです。小長井誠会長の太陽電池の総説は、数千件のダウンロードがあったのだとか。すごいですねえ。学会だと、研究成果を除いて「ネタが続々」とはいかないとしても、おもしろいものも隠れているのだなと感じました。

GWとか夏休みとかの読み物記事は、「休みだから柔らかいテーマを」といわれることが多く、ちょうどよいテーマになりました。写真だって柔らかいのが取り上げられました。高分子学会は、同学会の伝統を示す、70年前発刊の論文誌の1巻1号の写真。応用物理学会は、外国人受けがいいという、エサキダイオードの電流-電圧特性を、葛飾北斎の浮世絵の波と重ねた図、という具合です。取材前は「学会の年会シーンくらいしかないかな」と思っていたのですが、これなら紙面をひらいてぱっと目に入る写真で「なんだろう」と引き付けられる感じになりました。

でも、悩んだのはその古い「高分子化学」1巻1号。私が持参したコンパクトカメラではうまく撮れそうにないので、借りていって本社写真部に頼んだのですが、「替えのない貴重なものを借りる」って避けたいもの。「事務局でカメラがお好きな方に撮って頂いて、メールして頂ければ大丈夫です」っていうのに、「問題ありませんよ、お持ちください」とか「会長命令で、貸し出いOKとするよ(笑)」とかいわれて、嬉しいような悲しいような…。紛失したり汚したりしたら大変なので、翌日には学会に持参して返却としました。ああよかった、無事すんで。皆様、貴重なものは心やすく、こちらに貸し出さないでくださいましね~。

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2012年5月 1日 (火)

大学発ベンチャーの卵を支援する新事業

27日付に文部科学省の今年度スタート事業「大学発新産業創出拠点プロジェクト」について記事を掲載しました。ベンチャーキャピタル(VC)は通常、起業後のベンチャー(VB)の育成にノウハウが豊富で力を発揮するのだけど、この事業では大学発VBの起業前の計画段階からVCに加わってもらおうというものです。

これまでの国の大学発VB支援事業は、「VBの社長をだれにするかとか、特許調査をするとかは、大学の研究者の方でやって」というもので、起業前はほったらかし、それが大学発VBがうまくいかない一因だという反省があるからです。そこで、VCのビジネスは「起業したVBを育てて株式上場やM&Aに持って行き、そこで利益を得る」というものなのを、「もうちょっと前から手がけてくれない? 前段階の活動費(調査費や旅費)は国から出すから。でも、人件費には使えない点に気を付けてね。近年のさまざまな事業で問題になっているように、人件費狙いの応募とか出てきちゃうから。それでもって、ビジネスとしての利益は、【起業後に急成長して上場へ】という従来のVCの仕組みで引き出してね」という仕組みです。この説明で、どういう事業がわかります? みっちり書いた記事をご参考くださいね。

とりあえず、「おもしろい設計ですね」というのはいえるでしょう。VCに、VC本来の活動と違うところを、国のお金でしてもらって、でもビジネスの利益はVC本来の活動でよろしく、っていう形ですから。大学発VBは、米国シリコンバレー型は日本ではほとんど無理で、別の日本型が必要だということを私はずっと記事でも、博士研究でもいってきました。それを考えると、「日本ならではの形でユニークですね。公的資金を受けるVCなんて、米国人は『信じられな~い』というと思いますが」という感想です。

それにしても「わかりにくい設計ですね」。夏の概算要求時に書いた記事スクラップをあけてみましたが、今のようなイメージを少なくとも私はまったく持っていなかった。当時の段階で「分かった範囲で書いた」ので間違いはないのですが。その後、文科省内の委員会の幹部に話を聞いた時も、うーん、感激した覚えは、ないです。半分くらいしか理解できなかったのでしょう。でもって今回、省内担当者への取材で「これはユニークだけど複雑だな」と初めて理解し、翌日の文科省が大学(研究者)側に向けて開いた説明会で「なるほど! だいたいわかった!」と思い、しっかりとした記事を書こうという意欲がようやく生じた状況でした。

文科省の産学連携・地域支援課は「制度は複雑だけど、利用法はシンプル」といっているのですが、大丈夫かなあ。「わかりにくい」というのは一般に、慣れない人にとってはマイナスに効くものですから。とりあえず、事業名称の略称、どうします? 担当課に「いいのがあれば知らせてください」といったのですがそのままで、記事でも名称は見出しに使われなかったし。「ええとあれ、なんとかっていう大学発ベンチャーの変わった新事業」なんてちまたで会話するようだと、ちょっとネ~。事業名は変えられないけど、愛称ならまだ、これからなんとかなるかと思うのですが。

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