理系の芥川賞作家、円城塔氏
ちょっと古い話題ですが、23年度下期の芥川賞受賞作家、円城塔氏の話をさせてください。発言が跳ねっ返りで話題を呼んだ、同時受賞の田中慎弥氏の方が俄然、注目されていましたけど、円城氏もなかなかユニークです。いえ、作品(小説)は普通と違う文体・内容なので3ページで読むのを止めたのですが、受賞作が掲載された文藝春秋のインタビューが、おもしろかったのです。ちなみに氏の経歴は「東北大理学部卒、東大大学院総合文化研究科(駒場にある、文理融合みたいな研究科)博士課程修了(=博士号取得)」です。
ユニークさを示す例は、後半に趣味を聞かれて「なんでしょう…手先を動かすことは好きなので…喫茶店で工作したり…スケッチブックを買ってきて、はさみで切ってセロハンテープでつないでメビウスの輪みたいなのを作ってみたり」。さらに編み物と挙がったのでインタビューアが、帽子やマフラーを編むのかと尋ねると「そういう実用的なものじゃなくて、やっぱりメビウスの輪みたいなものを」っていうんですよ。メビウスの輪みたいなものの編み物をするんだ…。この辺は本人も、「自分は変わっている」と自覚しつつの発言みたいなのですが、その前の小説についての部分は「自分は理系の主流だ」という意識での発言のようです。
「ストーリーや登場人物の真理に没入して読むのが小説のオーソドックスのあり方でしょう。(…ただ、)エンジニアをしているような人間が今の日本のメインストリームの小説を読んで楽しいかというと、たぶん楽しくないんですよ(…だから、自分の作品みたいな、普通の小説ではないタイプを書いているのであり、)…文系・理系という区別がいいかどうかわかりませんが、世の中の半分ぐらいはそういう人たちがいるのではないでしょうか」。これはけっこう驚きました。「世の中の半分が理系として、理系はみんな、普通の小説ではない、円城氏の小説みたいな方が好きだっていう話??」って。
理系でも、純粋科学(数学や基礎物理、素粒子や宇宙のイメージ)が好きな人と、生活密着の科学(化学・生物)が好きな人って、ギャップが大きいと常々思っていたのですが、それを再認識しました。円城氏は純粋科学側なのでしょう。私はそうではなくて、やっぱりストーリーや登場人物の心理を、自身の社会生活に重ねて読める小説の方が圧倒的に好きですよお~。
でも、区分けして相手を否定するという態度はよくないとも思っていて、「みんな違って、みんないい」し「学際融合で新しいものを生み出すのも大事」とも思ってはいるのです。ので、円城氏のことを「変わった人だ」と突き放すようなことはこれくらいにしたいと思います。はい。
ちなみに理系出身の芥川賞審査委員の川上弘美氏の、円城氏の作品の選評も、円城氏対抗でユニークです。大学時代の量子力学の授業で出てきた「シュレーディンガーの猫」を引用して書いていて、ほかの審査委員とは違う切り口ですね。で、シュレーディンガーの猫、私も授業で聞いた覚えがあるけれど、何だったっけ。1,2カ月前に研究成果リースで見かけて、ウエブヒットも高いとしって「何だったっけなあ」と思いつつ、無視した記憶が…。私はもう少し、純粋科学に近づく努力をした方がよいですか、ねえ?
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