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2012年9月

2012年9月29日 (土)

米国型イノベーションなんて無理に決まっている

このタイトルの意は「日本型イノベーションを構築しなくてはいけない」というものです。これ、「科学技術イノベーションの実現のために」というテーマの、第11回産学官連携推進会議のパネルディスカッションで私が主張してきた内容です。以下、その再現を…

【日本の大学発ベンチャー(VB)】私が取材で力を入れてきたテーマに大学発VBがある。大企業には難しい破壊的なイノベーションが、VBには可能と期待されているが。しかし、日本の大学発VBはブーム沈静化の後はマイナス評価のままだ。うまくいかなかった要因の一つに、発明者など技術者側と、金融支援やビジネス経験者の経営者側の対立が大きかったことがある、と私は考えている。双方の専門性が高すぎて、相手の価値観が理解できず結局、技術者側にすべてを押しつけて、失敗を非難する結果となった。少なくともうまくいっている大学発VBは、技術者側と経営者側が互いにリスぺクトする、すぐれたパートナーシップを築いている。残念ながらこの形を広く実現するに至らなかった。

【米国の真似ではうまくいかない 日本型のイノベーション確立を】VBをはじめ日本は、手本としてきた米国と社会的環境や価値観の違いが大きすぎる。米国は数度、会社を興して廃業させてもその経験が評価されるし、貯蓄より投資が推奨され、競争社会の結果として貧富の差も許容されている。多様な人種で社会が構成され、VBを率いるリーダーに、科学技術の博士号とMBAを持つビジネス経験者がそれなりにいるから、VB内での特別の対立は起こりにくい。

しかし、日本社会は米国社会と違う。米国型のVBやイノベーションの仕組みを真似するだけではうまくはずがない。 米国の真似ではなく、日本型のイノベーション創出の意識を強く持つべきだ。 具体的には、グリーンイノベーションが有力な候補といえるだろう。環境・エネルギーとこれにかかわる材料や化学などの分野は、基礎科学力の国際評価でみて日本が強みとする分野だ。これまでも、自動車、エレクトロニクス、機械などさまざまな産業を支えてきた。こういった産業(エレは今、元気がないが)が国際市場でも力を発揮することができたのは、材料などの研究開発で競争力があったから。それを考えるとグリーンイノベーションは、バイオやITと比べて有望といえるだろう。

しかも、グリーンイノベーションは日本再生と同時に、国際的なステイタスも高めることが可能だ。発展著しいアジアでは、先進国と異なり今も工学の重要度が高く、同時に開発に伴う環境問題も深刻化している。日本の科学技術力でアジア各国をリードすることが可能なはず。「日本社会に合った新しい形を構築する」ことを、強く意識して、これを実現したい。

【融合推進の人材がキーに】科学技術はこれまで分析型で、深く狭く専門性を高めて高度化してきた。しかし複雑化した社会で、環境エネルギーや食糧など大きな課題に取り組むには、科学技術のさまざまな力の融合が必要だ。融合は科学技術の異分野に限らず、産・学・官のような異なるセクター間や、VBで難しかった文系・理系の人材間、女性や外国人などマイノリティーとマジョリティーの間でもある。融合で新しい形を求める中で、日本社会に合った姿を構築していけばよい。

この融合推進のキーパーソンには、多面的な力を持っていてほしい。スペシャリストでゼネラリスト。文理双方など複数の分野の学びをし、科学技術と社会の両方に目配りができる人だ。イノベーションはほかと異なる視点や技術が必要なので、専門性は欠かせない。しかし、専門性に固執せずに相手に自ら近づいて、同じ目線でコミュニケーションをし、「この課題をなんとしても解決しよう」と大勢の思いを一つにさせられるリーダーでなくてはならない。

多くの大学で養成が始まった博士人材はこのタイプを目指している。個人の意志で大学院生となった社会人が、当初の専門性とは違う学びや研究を手がけるケースも増えている。さらに国際化推進の教育プログラムなど育成のチャンスも用意されている。今までにないものを創造しようという優秀な人が増えていると取材の中でも感じている。先行きは明るい。これを実現すべく、皆で前へ踏み出していきたい。

…この内容は、私の以前の取材に端を発し、博士研究を通じて確信し、紙面や取材先との会話の中でも主張してきたものです。でも、そこでどれだけの人の目に触れ、伝わったかというと今ひとつ、自信がない。それだけに今回のような、大勢(最大1500人の席)に一度に発信できるのはチャンスだと思いました。記者の本業が第一なのは当然ですが、本業で得た大切なことを、本業とは違う手だてでも発信できるというのは、すばらしいことです。最近はおかげさまで、本の出版も後押しになって多様な声をかけていただくようになっています。さまざまな機会の提供をしてくださる皆様に、この場をお借りして(自分のブログですが、笑)感謝をお伝えしたいと思います。

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2012年9月23日 (日)

産学官連携推進会議で相澤益男先生が司会役

見込み聴講者数1500人という大勢の前での活動が、今度の28(金)に予定されています。第11回産学官連携推進会議の夕方、パネルディスカッション「科学技術イノベーションの実現のために」で、パネリストとして参加します。聴講者数、1500人ですよ、1500人! 少し前の段階で申し込み1000人を越えていたといいますから、すごいですね。さすが内閣府主催の伝統ある会議です。
http://www.innovation-japan.jp/about1/index2.html


何年か前に、日刊工業新聞社主催の800人規模のパネルディスカッションで業務をしたことがあって、これはコーディネーターの仕事でした。でも、この役はすっごく大変です。「予定と全然、違う展開になっちゃって、どうするのよ、これ!!」と真っ青になりながら、壇上では微笑み続けるわけですから。この時は準備に相当の時間を費やしましたねえ。どちらかというと、立場の高い人というより、実務担当者がする仕事といえるでしょう。ところが今回はそのコーディネーター役を、相澤益男総合科学技術会議議員がしてくださるというではありませんか! これもまたすごいことです。イノベーションにかける先生の思いがあってのことと推測されます。

相澤先生がかつて東京工業大学のフツーの教授だったころ、私は入社2年目くらいで、バイオセンサーの研究成果を取材に行って、お世話になるようになりました。その後、東工大の学長、国立大学協会(国大協)の会長、総合科学技術会議の筆頭の議員と、科学技術と社会を考えるうえで相当、重要なお仕事にご活躍の場が広がっていきました。先生は学部を横浜国立大学で学んでいるので、東工大は大学院からの入学で、こんなに活躍されるようになったというのもすばらしくありませんか。「最初から最後まで同じ大学の学者」ではない方が鍛えられていい、という意見がありますよね。私自身、3つの大学で学んでいることもあって、この説の賛同派です。東工大では数年前から、「他大学での経験なしで、学内の助教、准教授をして教授に昇格するのは不可」となった(聞きかじりなので正確でなかったとしたらご容赦ください)のですが、この発案も相澤先生だとうかがっています。

そんな相澤先生が、手のかかるコーディネーター役を自ら、手がけられる場に、私が参加するなんて考えてもみないことでした。「準備のため、こんな資料をご用意ください」と事務局にいわれたのですが、〔それを上回ること3倍〕みたいな資料を出して、私もやる気も見せてしまいましたわ~。

それにしてもこの時期、困るのは服装です。人前に出る時には、その会の雰囲気を考慮して、「地味すぎず、派手すぎず」を考えるのですが、気候が不安定な時期は寒暖も両方の可能性を考えなくてはいけません。この週末なんて、何? 状態でしたよね。最高気温が23度Cくらいですか。明日からはまた30度C近いとのことですし。というわけで今、自宅の部屋につり下げて悩んでいる服装は、3数種ほどの組み合わせです。当日、「あっ、△△がない!」となりませんように。

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2012年9月17日 (月)

「どんな記事になりそうか」と心配な時は

技術コミュニケーションの講演(時間外活動)で、質疑応答が講演と同じく1時間も要する経験をしました。「研究費が増やせるメディア活用術」の本の内容を使ったのですが、立場的にはその研究費を「配る」方の独立行政法人でした。組織全体の広報部門以外に、各部局の中に広報担当者をおいているという、広報活動にとても力を入れている組織だったので、少し緊張していったのですが、それでもこんなにたくさん、質問が出るとは思いませんでした。それも答えが難しいものが多くて。「個々の記事がどれくらい、読まれているかのチェックは?」とか「広告主との関係で記事が難しいことなどあるか?」とか。こちらの答えもしどろもどろ、取り繕えないまま、まあよくいえば正直に、言葉にしてしまうという感じでした。

このうち、「そうだ、そうなんだよね」と思った、価値ある応答があったのでご紹介します。それは「記事を事前に見せない理由」として、報道の記事は広報機関誌の記事と違うのだという説明をしたのがきっかけでした。「このような違いを説明してもなお、研究者が、どんな記事になるかと心配する場合はどうしたらいい?」と食い下がられまして。「新聞記事そのものは事前にお見せできませんが、こんなふうな記事になります、と概要を説明することはあります。そうすると多くの場合で、『なるほど自分の意とまったく違う形で採り上げられることはなさそうだ』と安心してもらえる気がします」といいました。

ここまでは、これまでも話していた内容なのですが、はっと気づきました。駆け出し記者の時代に、上司にいわれていたことです。それは、【取材の最後に、『今日の先生のお話の確認ですが、こうこうこういう内容で、ポイントはこことそこですね』と、復習してくる】というものでした。経験の浅い記者では、自分でわかったつもりでいたけどいざ、帰社して執筆しようとおもったらうまくまとまらない、ということが起こるので、その対策だと思っていました。でも、これは確認を受けた取材相手にしても、安心するものですよね。ほぼ自分のいったことが理解されているな、って。実際に、「いやいやポイントはそこではなくて、こうこうなんですよ」と返されて、頭を整理し直すという経験もあったと振り返ります。

けれども年長になると、こういう【復習】はいつのまにかしなくなっていました。よく知らないテーマで「これは厳しいな」と取材しながら思った時は、自然に確認を最後に入れるという行為が、あることはあります。でも、あまりきちんと意識していなかった。…と取材する側として反省です。

そしてこんな昔話をしつつ、今回の質疑に答える方向に話が進みました。「研究者など、取材を受けて心配な時には、最後に『全体をまとめますと、~で、ポイントはAとBということで、ご理解いただけましたか?』とインタビューアに返してはどうでしょう。辛口の分析記事などを計画している場合は微妙かもしれませんが、一般的な取材であれば有効だと思います」と持っていったのでした。

たった一つながら、たくさんのことが含まれた質疑応答となりました。質問者の求めるものに結果的に答えられたし、技術コミュニケーションのノウハウ集に一つ追加ができる内容を見つけたし。私自身、初々しいころの思い出にちょっと浸ったうえ(笑)、「いやいや、今だって必要なときにはこの形をとらなくちゃ」と襟を正すことにもなりました。質疑応答をはじめ、予想外の展開というのはちょっと怖いものですが、そこで思いもしなかった重要なことが見つかるかもしれません。その場で反応しなくてはいけないコミュニケーションの魅力を、改めて感じるチャンスとなりました。

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2012年9月10日 (月)

すごい数字ミスを見つける

日刊工業の記事でのミスではないですよ。「すごい数字ミス」ですもん。万が一、記事であったとしたら絶対にブログには書きません。実際は、博士研究を使った寄稿を頼まれて、以前のレポートをみていて発見したものです。記事分析のグラフで、横軸が「2003, 2004」と各年が 並んでいて、「2007」の次に 「2008」が来るべきところに、なんと「2997」という驚くべき数字が続いているではありませんか! おそらく、まず間違えて「2007年」を繰り返すところに、0と9のキーをさらに間違えて、「2997年」というSFチックな年が出てきたのでしょう…。

 私はそそっかしいので、「研究費が増やせるメディア活用術」を初めての単著で出した今回も、「絶対にミスが出てくるだろうなあ。嫌だなあ。恥ずかしいなあ」と思っていました。ところが結果的には、なんと、ひとっつもミスがない状態で仕上がりました。それはまあ、しつこくしつこく、いったい何度、読み返したか…。ミスに気を付けて注意深くだと、一冊分を読むのに6時間かかりますからねえ。がんばりました。

この調子で本業でも「ミス撲滅、完璧!!」でいきたいものです。あ、これについては解説、これ以上しません。ぼろが出るから。がんばります。それだけです。

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2012年9月 4日 (火)

東大工学系の博士経済支援記事

8.31付の2面に「東大、博士全員に支援金 工学系 外部獲得金が財源」という記事を掲載しました。大学独自の博士支援金は4年前に、東大と東京工大と東京農工大が張り合って発表して記事にしていました。でもその後、「なんだ、その時に〔原則全員に〕といっていたの、実際は条件があって違ったんじゃん」ということが判明していまして。今回の東大の話は、「現状では実際に、全学の全員支援にはなっていない。工学系は文科省のグローバルCOE事業で支援している人数が多いだけに、この事業が終わった後のことを考えた。そして全員が最低、5万円は受け取れるような仕組みにした」というニュースでした。

一つ、関係者からの指摘での反省点は、財源についての表現です。正しくは、「工学系では教員獲得の外部資金が多いため、間接経費として全学や研究科が受け取る分も多く、研究科全体の研究教育活動に向けて使い道を自由に決められる予算がけっこうある。その部分を使って博士学生に資金を提供する」ということです。ですが、ぱっと読むと、「外部資金の直接経費(研究のためのもの)を、目的外の博士支給にまわしている問題行為に見えるのでは?」 というご指摘でした。言葉足らずだったなと振り返ります。

日刊工業ではホームページで誰でも自由に見られる記事を絞っているのですが、これは読めます。「日刊工業ビジネスライン」というサイトから、「ニュース」の「新技術・新製品」の8/31で出てきます。その記事の上の方になる数字が目にとまります。さっき見たところで「Tweet 332」「f 13」です。これ、ツイッターでの発言が332件で、フェイスブックで「いいね」を押してくれたのが13件ということですよね? 発言332件もあるんだというのに気をよくして、電子版有料会員のログインをして、「週間閲覧ランキング」と「今日(8/31)の閲覧ランキングラング」をみたところ、こちらはどちらも上位10位圏外。そうなんだあ? 電子版とSNS利用者の関係とかよくわからないけれど、ランキングぶっちぎりトップの記事の、ツイート数など今度、みてみようかしら。

まあ私は、自動車業界担当のスクープ記者、というわけではないので、数字が大きければよいという判断基準ではありません。けど、この私のブログにはほとんど着かないツイートが、332件というと、どんな感想が出ているのか気になります。そうです、私は結局、ツイッターもフェイスブックも今のところ、手を付けていないのですよ。

SNS利用を控えているのは、何人もの人にサーチして、トライしたときの○×、トライしないときの○×を聞いたあげくの判断です。「新しモノ好き」ってプラス評価されることが多い気がしますが、取り組めばいいものではなくて、個々の価値観に基づく選択であるべきですから。時間は有限、エネルギーも有限。夏風邪の喉不調が6週間も続くような私の場合、「体力も人並み以上に有限」だから。とはいえ、どんな感想か、やっぱり気になります。利用者のどなたか、耳打ちしてくれないかしら~。

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