米国型イノベーションなんて無理に決まっている
このタイトルの意は「日本型イノベーションを構築しなくてはいけない」というものです。これ、「科学技術イノベーションの実現のために」というテーマの、第11回産学官連携推進会議のパネルディスカッションで私が主張してきた内容です。以下、その再現を…
【日本の大学発ベンチャー(VB)】私が取材で力を入れてきたテーマに大学発VBがある。大企業には難しい破壊的なイノベーションが、VBには可能と期待されているが。しかし、日本の大学発VBはブーム沈静化の後はマイナス評価のままだ。うまくいかなかった要因の一つに、発明者など技術者側と、金融支援やビジネス経験者の経営者側の対立が大きかったことがある、と私は考えている。双方の専門性が高すぎて、相手の価値観が理解できず結局、技術者側にすべてを押しつけて、失敗を非難する結果となった。少なくともうまくいっている大学発VBは、技術者側と経営者側が互いにリスぺクトする、すぐれたパートナーシップを築いている。残念ながらこの形を広く実現するに至らなかった。
【米国の真似ではうまくいかない 日本型のイノベーション確立を】VBをはじめ日本は、手本としてきた米国と社会的環境や価値観の違いが大きすぎる。米国は数度、会社を興して廃業させてもその経験が評価されるし、貯蓄より投資が推奨され、競争社会の結果として貧富の差も許容されている。多様な人種で社会が構成され、VBを率いるリーダーに、科学技術の博士号とMBAを持つビジネス経験者がそれなりにいるから、VB内での特別の対立は起こりにくい。
しかし、日本社会は米国社会と違う。米国型のVBやイノベーションの仕組みを真似するだけではうまくはずがない。 米国の真似ではなく、日本型のイノベーション創出の意識を強く持つべきだ。 具体的には、グリーンイノベーションが有力な候補といえるだろう。環境・エネルギーとこれにかかわる材料や化学などの分野は、基礎科学力の国際評価でみて日本が強みとする分野だ。これまでも、自動車、エレクトロニクス、機械などさまざまな産業を支えてきた。こういった産業(エレは今、元気がないが)が国際市場でも力を発揮することができたのは、材料などの研究開発で競争力があったから。それを考えるとグリーンイノベーションは、バイオやITと比べて有望といえるだろう。
しかも、グリーンイノベーションは日本再生と同時に、国際的なステイタスも高めることが可能だ。発展著しいアジアでは、先進国と異なり今も工学の重要度が高く、同時に開発に伴う環境問題も深刻化している。日本の科学技術力でアジア各国をリードすることが可能なはず。「日本社会に合った新しい形を構築する」ことを、強く意識して、これを実現したい。
【融合推進の人材がキーに】科学技術はこれまで分析型で、深く狭く専門性を高めて高度化してきた。しかし複雑化した社会で、環境エネルギーや食糧など大きな課題に取り組むには、科学技術のさまざまな力の融合が必要だ。融合は科学技術の異分野に限らず、産・学・官のような異なるセクター間や、VBで難しかった文系・理系の人材間、女性や外国人などマイノリティーとマジョリティーの間でもある。融合で新しい形を求める中で、日本社会に合った姿を構築していけばよい。
この融合推進のキーパーソンには、多面的な力を持っていてほしい。スペシャリストでゼネラリスト。文理双方など複数の分野の学びをし、科学技術と社会の両方に目配りができる人だ。イノベーションはほかと異なる視点や技術が必要なので、専門性は欠かせない。しかし、専門性に固執せずに相手に自ら近づいて、同じ目線でコミュニケーションをし、「この課題をなんとしても解決しよう」と大勢の思いを一つにさせられるリーダーでなくてはならない。
多くの大学で養成が始まった博士人材はこのタイプを目指している。個人の意志で大学院生となった社会人が、当初の専門性とは違う学びや研究を手がけるケースも増えている。さらに国際化推進の教育プログラムなど育成のチャンスも用意されている。今までにないものを創造しようという優秀な人が増えていると取材の中でも感じている。先行きは明るい。これを実現すべく、皆で前へ踏み出していきたい。
…この内容は、私の以前の取材に端を発し、博士研究を通じて確信し、紙面や取材先との会話の中でも主張してきたものです。でも、そこでどれだけの人の目に触れ、伝わったかというと今ひとつ、自信がない。それだけに今回のような、大勢(最大1500人の席)に一度に発信できるのはチャンスだと思いました。記者の本業が第一なのは当然ですが、本業で得た大切なことを、本業とは違う手だてでも発信できるというのは、すばらしいことです。最近はおかげさまで、本の出版も後押しになって多様な声をかけていただくようになっています。さまざまな機会の提供をしてくださる皆様に、この場をお借りして(自分のブログですが、笑)感謝をお伝えしたいと思います。
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