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2012年12月

2012年12月25日 (火)

ジャズライブで記者の仕事を思う

知人のジャズライブにいきました。私は大学まで吹奏楽をやっていたのですが、にもかかわらずプレイヤーの上手、下手がよくわからない。うんと下手なのは分かる。けど、ある程度のレベルになると、その先は…。これって自分の専門や得意の分野を除くと、なんでもそうですよね。

まあ、クリスマスシーズンくらいは、わからなくても気楽に聞きにいっていいかと思ったわけです。実際、若い人の演奏はこの通りでしたが、ベテラン勢の演奏に対してはある共通点をもって、よさを感じることが判明しました。それは、「ベテランは余裕を持って、楽しんで演奏している」という特徴です。見た目も含めて必死な感じがなくて楽しそうで、もちろんコケないから(たぶん)、安心して聞いてられる。だからリラックスしてこちらも楽しめる。そのうえで楽曲が比較的、好みであれば「いいな」と感じる。それを発見しました。

以前、業界の先輩に「どんな忙しくても必死さを漂わすな。『こんなの、余裕だよ』という顔で軽くこなせ。そうでないと、仕事に余裕がなくなり、いい記事が書けなくなるぞ」といわれたことを思いだしました。そうですねえ。「余裕」っていいですよね。「暇」という言葉は私の辞書にはない(笑)のだけど、「余裕」は人間性に絡む、大事な言葉と思うのです。

一年を振り返って、本業のばたばたもあれこれ思い出すけれど、今年の特別感はなんといっても、初著書「研究費が増やせるメディア活用術」を出版できたことです。これは本当にジャズのベテランプレイヤーと同様、本業や研究で経験を積んだ今の年代だからこそ「余裕を持って、楽しんで書けた」ものだし、そのよさが内容に反映されていると振り返ります。あいかわらず脳天気で自画自賛が多くてスミマセン。いちおう、相手を見て控えめにする時もあるのですが、ブログだとつい、ね…。「人生は山あり谷あり」。でもやっぱり「人生は喜びなり」。皆様、今年もありがとうございました。来年も楽しんでよい仕事をしていきたいと思います。では少し早いですが、良いお年を!

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2012年12月16日 (日)

大企業人と大学発ベンチャー実業家

日刊工業新聞のモノづくり連携大賞で、大学発ベンチャーを後押ししたいという思いは以前から審査委員の間であって、今年もにユニークな例が入賞しました。当事者のコメントを入れた連載で、7(金)付には大賞で「東大・佐竹製作所が連携し起業した、ロボットなどのセンサーのベンチャー・タッチエンス」を、14(金)付には特別賞で「東京農工大・企業出身者が20年を経てのリベンジで起業した、手書き文字認識のベンチャー・アイラボ」を、それぞれ採り上げました。

最初の例は、中小企業で産業用ロボットの金属部品を扱っていた佐竹製作所が、新事業で高いシェアを獲得するのにロボットの手のセンサー部品を開発することに焦点を絞りました。大学の技術移転を受けて、手のひらのセンサーは独自開発するも、指先のセンサーは数億円規模の微小電気機械システム(MEMS)加工装置が必要で、リスクも高いため、別会社化しての開発・事業化を思案しました。合わせてそれまでの経験から、この最先端技術に詳しい発明者の関与が必要と考えて、東大IRT研究機構の下山勲教授、同研究室出身の中井亮仁特任助教、佐竹製作所(法人)、同社の尾方謙一社長(個人)らが出資して、タッチエンスを創業。大学と企業の人材や資源を同社に集めたといういきさつです。

実は中井助教らは大手電機メーカーとも共同研究を進めていましたが、市場規模が小さくて大手の新たな事業化には進めなかったそうです。技術開発は順調だったにもかかわらず、です。そのため、ベンチャーでするしかないとの意識があって、科学技術振興機構(JST)の若手研究者ベンチャー創出推進事業に応募し、取り組んでいました。事業終了時の起業が奨励されている事業ですが、佐竹からのアプローチにより、早期に起業となったのです。

一方、農工大の件は、手書き文字を99%の精度で認識する農工大中川正樹教授の基本技術で、約20年前に教授と出会った電機会社(武藤工業)技術者だった人が中心人物です。JSTの大学発ベンチャー創出推進事業で両者が開発を進め、終了半年後に大学発ベンチャーを創業。まもなく、アップルのiPadをはじめ端末でのペン入力の需要が急増、設立1年もたたないうちに多数の採用実績を出すという展開になっています。20年前は書かれた文字をパターン認識で読み取る、いわゆるOCRの技術で、多数の大手電機メーカーが手がけていたとか。ところが、利益が少なく大手の事業には適さず、ほとんどが撤退となりました。その時に無念の思いを抱いた堀口昌伸氏が武藤工業を退社して、設立した大学発ベンチャーの社長を務めているというわけです。

この2件、いろいろな点で共通項がありますね。魅力的な技術で、大手企業も関心を持ってそれなりに取り組んだけど、市場が小さいという理由で断念。でも、ベンチャーなら市場が小さい(もしくはない)段階から、きちんとしたビジネスプランに基づいて動きだせば、市場独占も可能で、事業規模として十分といえる。JSTの支援(今回の二つはそれぞれ別の事業)で大学の発明を核に、大企業ではない企業技術者がキーパーソンになって、大学発ベンチャーを起業して運営する-というのが共通でした。

ベンチャーは製造業の多くの人が関心を高く持っていて、大企業の人も以前からイノベーションの担い手としてのベンチャーへ興味は大。でも、その多くが、金融関係者と同様、ただの【評論家】。「日本のベンチャーは欧米と比べてひどいものだ」「まともな成功例がほとんどない」なんて、高収入と安定を手放さないままで、偉そうなことをいっている。ハイリスクの新市場創出に向けて踏み出す勇気を持った、自分には真似のできない【実業家】に対して、失礼ではないですか? 当初は赤字続きでビジネスパーソンとして十分な実績を上げていなかったとしても、評論家よりは勇気ある実業家の方が、応援すべき対象だと私は思うのです。大企業の皆様! ベンチャー関係者にどうぞ温かい目を向けてください! 改めて、そう思うのでした。

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2012年12月 7日 (金)

大学設置認可見直しの検討会と公立大学協会のリリース

公開の委員会は数あれど、昨日(12/6)のは聴講者120人くらいの大きなものでした。「大学設置認可の在り方の見直しに関する検討会」。田中真紀子文科相の発言で騒動になった大学設置認可問題を、どうこの後考えていくかという議論の場です。大臣の意向もあって、大学関係者に偏らないよう、13人もいて、高校PTA関係者や公認会計士なども入っています。

この中での林文子横浜市長が発言に、「(私立大学の設置認可でも)地域住民の希望や自治体の声を聞いてほしい」というのがありました。さらに本日朝、文科省記者クラブでの定例大臣記者会見で、この会議の事を記者から尋ねられた田中大臣も、林氏の発言を取り上げたのでした。それで、私としては「今日付の日刊工業新聞を見てくださいね!」と自慢する気持ちになったのでした。

これは本日(12/7)の大学面で書いた、「公立大協 大学設置認可で提案 利害関係者の評価必要」という記事のことです。「公立大は自治体が設置者なので、開設の前もその後の評価も、地域の金融関係者や企業人など、大学運営に詳しくはない利害関係者の意見を全面的に受けたうえで設計・運営している」という状況を取り上げています。「開設計画だって自治体担当部局、議会、自治体の財務状況をチェックする総務省を経てようやく、文科省に提出される」というのも、「そうなんだ~」と思うでしょう。私もこのほど知ったばかり&記事にしたばかりの話です。

もっとも、公立大の動きについては以前から注目していて、取材も重ねているんですよ。全国82校、私立大や国立大と比べ陰が薄い面はあります。でも、設置者の議会や首長の意向が大きく影響するので、「社会の目にさらされて、鍛えられている」というのが注目点です。公立大学協会の会長は、奥野武俊大阪府立大学学長です。今回の国政選挙で今をときめく橋本徹大阪市長(前大阪府知事)と戦ってきたのですからね、鍛えが入っていますよ~。

それで、記事に戻りますがこれ、ちょっと書きづらかったのですよ。前文は「設置認可の議論が進む中…、公立大はプロセスが国立、私立大と違う。公立大学強化はこの観点でコメントを提出した」としています。もしも私が独自に取材してまとめるのなら、もっとわかりやすい「解説記事」型に仕立てるところです。ところが、これは残念ながら独自記事ではなく、公立大学協会のリリースを元にしています。といっても、ニュースとしての新規性は「文科省にコメントを提出」だけです。提言というほど大々的なものでもありません。だけど、捨てる(書かない)のは惜しい。「公立大の設置認可プロセスって違うんだ」という驚きが私にも、おそらく読者にもある。記事にする意味はある、というわけで、ちょっとひっかかる書き方ながら文字にしたわけです。

これ、協会の戦略勝ちといえるかなあ。控えめな協会&担当者だと「ニュースリリースになんてならないでしょう」と判断したことでしょう。実際、一般紙が飛びついて各紙が書くようなリリースではありません。でも、うちみたいな専門紙は取り上げたわけですから。私、いつもは「取り上げられないリリースが大量にまかれるのって、無駄だなあ」と思っていたのですが、やはり「だめもと」で出す意味はあるのですね。ということで広報の皆様、メディアへのPRは、中身とタイミングの工夫で、グッドラック!

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2012年12月 3日 (月)

同感型取材、官庁依存の戒め

「△について意見を聞いた」という取材で、「この人に取材してよかった」と思うのは、こちらが考えていなかったような意見や、切り口を相手が示してくれた時が一つ。もう一つは、逆に「そうそう、そうですよね!!」と同感しきり、というケースです。例えば11/28付の日刊工業新聞の科学技術面に掲載した、電気通信大学の梶谷誠学長の小さなコラムは、後者の同感型取材によるものでした。

「今の日本の問題は、皆が自分で考えないこと。官庁が新事業を次々考えて提案し、支援資金がほしい現場はそれに当てはめた計画づくりに汲々(きゅうきゅう)としている」とまず、吠えてもらいました。これはまさに、私がここ数年、気になっていたことでした。国立大学など運営費交付金はどんどこ減らされて、かわりに競争的資金はずんずん増えています。「大型ものがこんなに増えて大丈夫? 選択と集中といってもやりすぎていない?」と思うこともあります。これに対して大学側は、新事業が出てきたら何はともあれ、なにかしらプランをこさえて応募する、という状況になっている感じです。現場の苦しさはわかるけど、公的存在であるはずの大学が「お金をもらえるなら、中身なんてなんだっていいさ」ではまずくないかあ~。同時に、役人はもっと現場をコントロールするしたいから、この傾向を強めているのかな? と勘ぐりもしてしまいます。

そして、選挙の時期でもあり、選挙というのは文面に書かないのですが、「景気対策を政府に求める一般の声も強すぎる」と矛先を広げてもらいました。主役は企業や大学など、新しいものを生み出すことを本来の使命とする機関であるはずなのに、みんなして国が悪いとばかりいっていて、いいんかい?(という言い方は学長はしていませんでしたが) というわけです。

さらに、皆が工夫をするべきところなのに、国の方針に全面的に歩調を合わせて「△が大事だ」と右にならえ、となっていることを指摘。ある程度はそれでいいと思いますよ。官庁は、国全体をある方向にもっていかなくてはいけないことに対して、補助や助成をする、そういうものだと思います。でも、知的で社会的リーダーであるべき機関や人が、自ら新しい切り口で発言し、動きだすことなしで、官庁に従っているだけでは…ねえ。自ら考えて工夫することの重要性を強調してまとめました。

この同感型取材は、記者の間で「自分がいいたいことを、取材先に語ってもらって、記事にする」という典型的な取材法(別に決まった呼び方も、手法分類も、あるわけではないのですが)の一つです。行きすぎると、記者の方が「これってこうですよね? ああだと思いませんか? こっちだって問題です」と畳みかけるばかりで、「これ、だれの記事?(取材先のことを書いたのではなく、記者の考えを書いた記事)」となってしまうので、気を付けなくてはいけませんが。続いて、もう一つの「意外型取材」(これも分類があるわけではないのですが)について、次の機会に紹介することにします。

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