東大の秋始業、本当の狙いは
1月31日付2面社説に「東大の学部『秋始業』 能動的な学びへ質的転換を」を掲載しました。少し前の浜田純一東大総長ら幹部のメディア懇談会で、「秋入学」ではなく「春入学&秋始業」を基本にするとコメントしたからです。そしてこの記事の見出しには入れられませんでしたが、後半には安西祐一郎日本学術振興会理事長(前慶応義塾大学塾長)が率いる、新1年生に実施する産学連携教育のフューチャー・スキルズ・プロジェクト((FSP)研究会につなげています。なぜ、この二つがつながるか? ここがこの社説のキモになります。
東大の秋入学や秋始業の話は、始業を外国の大学と合わせることが目的と、一般には受け取られていますが、それは理由の一部にすぎません。受験のため授業を受動的に受けて暗記も多い学びをしてきた高校生・浪人生から、知の探求や社会価値構築を意識した能動的な人間力を高めるための学をする大学生に変わる-。これが必要です。けれども現状は、そんな区切りなしに高校から大学が続いてるでしょう。だから、大学生になっても漫然と、単位が取れる楽な授業に出て、関心事は次の就職活動と、あとは学生らしい楽しい遊びだけ、となってしまう。大学というのはそういう場ではないのです。各自の社会的関心に応じて主体的に、知を求め、主張をし、議論を戦わせ、協力し、コミュニケーションの難しさを知り、挫折し、再び知をもとめ、そして次の高みを目指していく-。人間力・社会人力を高める高等教育とはそういうことではないでしょうか。座学を含む一般教養も専門知識もそのためにある。そのことを、入学まもない新一年生に実感させたい、というのが社説で取り上げた二つ共通内容であり、一般の人に私がもっと理解してほしいと思うことなのです。
秋始業をし、ギャップタームの半年に、新入生がショックを受ける体験をする。そのもっとも効果が高い活動が日本人学生の海外体験でしょう。でも、キャンパスの外国人をはじめとする多様な人材との交流や、ボランティアや、NPO活動なども、この時期にすることは意味が大きい。実際、東大は現制度でもできる、秋始業に似た体験をさせるFLY(フライ)プログラムを始めますが、これはボランティアや国内放浪の旅も推薦と明言しています。極端なことをいうと、高校生だった子たちが、「世の中は、こんななんだ!」とカルチャーショックを受け、これまでとは違う学びの姿勢を持つようになるのなら、なんだっていいということなのです。
ですから、記事の後半で取り上げている産学連携教育も、3,4年生に実施する一般的なものではなく、1年生でしなくてはいけないのです。この場合は「企業って、社会って、こんななんだ!」と実感することでしょう。このFSP研究会は5大学6企業で展開してきましたが、この先はノウハウを広く公開していくとしています。
すべてのことは労力・費用に対し、どれだけの効果が得られるか、です。秋入学で先進国の大学暦に合わせた1年留学は、効果も大きいけど労力・費用も大。日本社会の国家試験時期などを変えるという意味でも、大変な労力です。その次が、秋始業。日本社会を変えなくても、秋入学の場合と近い効果が得られるでしょう。でも、できるのはごく一部の大学に限られますね。それに対して、1年生向けの産学連携教育なら、効果はまあ下がるとしても、どんな大学でもすぐに始められます。そして…? そのほかは…?
そうです、さらにさまざまな大学教育改革の案が出てきて、しかるべきではないでしょうか。私はそのことを期待しています。大学の学びが、学生にとって刺激的で、意味があり、そして優れた社会人を輩出する、高品質のものになることを祈って。
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