« もんじゅの質問で下村文科相が | トップページ | 政府関係の仕事が回り出す »

2013年5月24日 (金)

たまには若い人

31歳。どうです。准教授。すごいではありませんか。でも、任期付きだから、たいしたことない? 違います。東京工業大学で終身雇用型の助教のポストにすでに付いていたのに、それを捨てて、東京農工大学のテニュアトラック制度(研究成果をうんと出せる環境を特別設定して、任期付きで採用し、任期終了時の審査で研究成果がしっかりしていたら、終身雇用型の正規教員に採用するという仕組み)に応募して、この春から初めて指導学生を持ったという研究者を取材しました。

日刊工業新聞の科学技術・大学面で若手研究者を採り上げる「拓く 研究人」(隔週水曜)というコーナーで、22日付に東京農工大の山中章徳准教授を紹介しました。4月スタートの企画で、私の最初の取材の番が回ってきて、若手なら何でもいいというわけにはいかないし、どうしよう? と頭をひねりました。それで、数年前スタートの文科省事業のテニュアトラックで、高い評価を得ている東京農工大を取材したことを思い出し、ここで光っている先生を選ぼう! と思いついたのでした。

先生の研究内容がまた、いいんですよ。鉄鋼という伝統的な材料に、フェーズフィールド法という20年前に登場した伸び盛りのシミュレーションを適用するという仕事です。オールドでニューなところが、日刊工業新聞に合う気がします。シミュレーションは得意分野ではないものの、計算式など詳細な手順を書かずに記事にしてしまえる、という点で便利でもあります。山中先生の出身は、神戸大学(iPSの山中先生と混同しそうですね)で学部の後、通常は5年の修士・博士を3年半で終えたとのこと。日本学術振興会の優秀な博士学生向けの支援も受け、学生時代から研究費で辛い思いをしたことはなさそうです。農工大のテニュアは、初年度1000万円、次年度500万円を用意してくれますから、これを使ってシミュレーションと対をなす実験設備を整備しているのだそうです。最後のおしゃべりで「出身が旧帝大じゃないというコンプレックスがあるのかな」と口にしていましたが、それくらでないと嫉妬の嵐が激しすぎるのではないかなあ。

それで、なぜ今のポストへの転身をしたかですが、自身の研究は先達から学ぶ成熟分野ではなくて、材料だけでなく流体や細胞の運動にも応用の可能性が広がっているという旬のテーマ。東工大の大講座制では講座の一員として活動する場面も多いので、このテーマに没頭するというわけにはいきません。「この魅力的な研究テーマで、他の人がどんどん成果を出していって平気なのか? 今の安定雇用より存分に研究に取り組むことの方が重要ではないか?」と考えて、テニュアに応募したのだそうです。かっこいいですねえ。少し前に日本IBMの北城さんに対して、同様の言葉をブログで書いたのですが、「今度は若い人」です。

若手研究者取材も実は嫌いではありません。「初めてマスメディアで採り上げてくれたのが日刊工業新聞でした」とその人の人生の記憶に残る存在になりうるから。さらにその先、時々に取材して、ネタ元として活用し続けられるという、記者としてのメリットもあります。互いに20歳代だった時から、そんなふうに交流してきた同世代の親しい先生も、何人かいるんですよ。これからは、うんと年少の研究者の伸びていく様を見守る楽しさが、出てくるのかもしれません。えっ、おおお、お母さん?? いや、いくらなんでもまだそんな年齢では…。ちょっとまって、早く結婚した同級生のお子さんがいくつだっていってたっけ? …と、「たまには若い人」で変な焦り方をしてしまう私でした。

| |

« もんじゅの質問で下村文科相が | トップページ | 政府関係の仕事が回り出す »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: たまには若い人:

« もんじゅの質問で下村文科相が | トップページ | 政府関係の仕事が回り出す »