ネイチャー案件で声を出して笑う
研究成果の講演を聞いていて、声を出して笑うなんて、私だってそうはしませんよ。私以外、だれも笑っていませんし。でもこのころ、2件続いちゃいました。なんででしょうね? どういう案件かと振り返ってみます。
まず一つは、大学共同利用機関の自然科学研究機構の機構長を中心とした初のプレス懇談会でした。この機構は基礎科学の5研究所を傘下に持っていて、話題提供のうち私は分子科学研究所の大峯巌研究所長が長年、取り組んできた水の話を興味深く思いました。水が凍る時、また氷が溶ける時って、それぞれどんなふうに分子がつながったり離れたりして起こるのか、意外にもきちんとわかっていなかったとのこと。その様子をスーパーコンピューターで明らかにし、芸術好き(と推測)の大峯所長がクラッシック音楽を付けて披露してくれました。そのかわいいことといったら! シミュレーションの動画を見ながら、「水の分子と分子がつながるのはまだかな、まだまだ、あ、来るかも、来るぞ来るぞ」とドキドキし、つながってきた段階で思わず笑ってしまいました。ちなみに氷化は2002年、融解は2013年のネイチャー誌のカバーアーティクル(表紙に写真なども載る各号の代表的論文)になったそう。11年間のネイチャーカバーアーティクルを調べたところ、化学は5本しかなくて、日本人の化学ではこの2報だけだそうです。ま~、かわいいだけではなかったのですね(笑)。
もう一件は科学技術振興機構(JST)の定例会見での話題提供、今回は元素戦略で京都大学・北川進教授(WPI拠点長)と東京大学・藤田誠教授と豪華版です。藤田先生の研究で、小さなカゴが並んだネットワーク構造の結晶ホストに、X線結晶解析ができなくて困っていたゲストの物質を取り込ませる反応をすると、どんなゲストであっても生成物はX線構造解析ができるようになってしまうとのこと。カゴ構造が効いているんですね。もっとすごいのは、ごくごく微量の物質(結晶になってもならなくても、関係ない)を、このホスト「結晶スポンジ」に【吸わせる】だけで、X線解析が可能になるということです。それって本当? なに、その【吸わせる】って~! ということで笑ってしまいました。結晶スポンジ法は今年3月のネイチャー掲載となり、極微量の薬の代謝産物を調べられるといったニーズで企業などから問い合わせが殺到したそうです。
どちらも元々は基礎研究なので、おしゃべりの席で「何に使うんだ、といつもいわれてきた」といった感じの発言が両先生から出ました。私は「こんなにおもしろいならいいんじゃないですか」なんて答えてしまい、「産業専門紙記者だけに、基礎科学はたいていパスなのに、我ながら珍しい」と思った次第です。
それで、なぜ笑ったか? ですが、研究内容がユニークで、そんな視点が嬉しくて、笑いにつながった、ということでしょうか。両方の案件ともネイチャーに載っているというのも、そのユニークさ、オリジナリティーが評価されたということではないでしょうか。それに、自身が化学出身(学部は理学部)なので、学部時代の学びを思い出しつつ(結晶ができなくてX線のデータがとれない、と同級生が泣いていたな、とか)、話の内容は100%理解できたのが大きいようです。内容の理解度8割ではとても笑う余裕はないですから。合理主義の私は「使える技術」が好きなのですが、やっぱり「科学としてのおもしろさ」も捨てがたい。というか、科学としての斬新さと、社会に役立つ技術としての展開の両立が理想なのですね。目指せ、「笑えて、使える技術」って感じ?!
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