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2013年9月

2013年9月27日 (金)

ネイチャー案件で声を出して笑う

研究成果の講演を聞いていて、声を出して笑うなんて、私だってそうはしませんよ。私以外、だれも笑っていませんし。でもこのころ、2件続いちゃいました。なんででしょうね? どういう案件かと振り返ってみます。

まず一つは、大学共同利用機関の自然科学研究機構の機構長を中心とした初のプレス懇談会でした。この機構は基礎科学の5研究所を傘下に持っていて、話題提供のうち私は分子科学研究所の大峯巌研究所長が長年、取り組んできた水の話を興味深く思いました。水が凍る時、また氷が溶ける時って、それぞれどんなふうに分子がつながったり離れたりして起こるのか、意外にもきちんとわかっていなかったとのこと。その様子をスーパーコンピューターで明らかにし、芸術好き(と推測)の大峯所長がクラッシック音楽を付けて披露してくれました。そのかわいいことといったら! シミュレーションの動画を見ながら、「水の分子と分子がつながるのはまだかな、まだまだ、あ、来るかも、来るぞ来るぞ」とドキドキし、つながってきた段階で思わず笑ってしまいました。ちなみに氷化は2002年、融解は2013年のネイチャー誌のカバーアーティクル(表紙に写真なども載る各号の代表的論文)になったそう。11年間のネイチャーカバーアーティクルを調べたところ、化学は5本しかなくて、日本人の化学ではこの2報だけだそうです。ま~、かわいいだけではなかったのですね(笑)。

もう一件は科学技術振興機構(JST)の定例会見での話題提供、今回は元素戦略で京都大学・北川進教授(WPI拠点長)と東京大学・藤田誠教授と豪華版です。藤田先生の研究で、小さなカゴが並んだネットワーク構造の結晶ホストに、X線結晶解析ができなくて困っていたゲストの物質を取り込ませる反応をすると、どんなゲストであっても生成物はX線構造解析ができるようになってしまうとのこと。カゴ構造が効いているんですね。もっとすごいのは、ごくごく微量の物質(結晶になってもならなくても、関係ない)を、このホスト「結晶スポンジ」に【吸わせる】だけで、X線解析が可能になるということです。それって本当? なに、その【吸わせる】って~! ということで笑ってしまいました。結晶スポンジ法は今年3月のネイチャー掲載となり、極微量の薬の代謝産物を調べられるといったニーズで企業などから問い合わせが殺到したそうです。

どちらも元々は基礎研究なので、おしゃべりの席で「何に使うんだ、といつもいわれてきた」といった感じの発言が両先生から出ました。私は「こんなにおもしろいならいいんじゃないですか」なんて答えてしまい、「産業専門紙記者だけに、基礎科学はたいていパスなのに、我ながら珍しい」と思った次第です。

それで、なぜ笑ったか? ですが、研究内容がユニークで、そんな視点が嬉しくて、笑いにつながった、ということでしょうか。両方の案件ともネイチャーに載っているというのも、そのユニークさ、オリジナリティーが評価されたということではないでしょうか。それに、自身が化学出身(学部は理学部)なので、学部時代の学びを思い出しつつ(結晶ができなくてX線のデータがとれない、と同級生が泣いていたな、とか)、話の内容は100%理解できたのが大きいようです。内容の理解度8割ではとても笑う余裕はないですから。合理主義の私は「使える技術」が好きなのですが、やっぱり「科学としてのおもしろさ」も捨てがたい。というか、科学としての斬新さと、社会に役立つ技術としての展開の両立が理想なのですね。目指せ、「笑えて、使える技術」って感じ?!

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2013年9月23日 (月)

国立大学改革、今度はすごいぞ

「国立18大学改革 教育の国際化など柱に 東工大、世界標準の質を保証 群馬大、重粒子線治療拠点に 英語講義拡充へ 外国研究者招へい」を9.12付科学技術面にニュースで執筆しました。教育の国際化で、世界的研究の取り組みを活用する10大学と、特定分野の強みを全学展開する8大学を、文科省で選定し、運営費交付金のうち110億円を使って支援するという内容です。

さらに「国立大学改革 強み生かし教育の国際化を」を19付2面社説で掲載。事例として秋田大学が2014年度開設を準備する国際資源学部を採り上げました。専門授業はすべて英語で行い、1年生で地熱発電など地元で、3年生で海外の鉱山企業で実習します。南アフリカ地域など重要資源国からの行政官や研究者、その候補生を受け入れて、日本人と外国人が学部レベルで切磋琢磨する教育の取り組みです。「今、求められている改革というのは、こういうことか」と読者に伝わるよう、意識して書きました。

大学改革って、10年前の04年の国立大学法人化前からずうっといわれている言葉ですよね。切り口もあれこれありすぎて、「今さらいうのって、どういうこと?」っていう感覚があるかもしれません。1年ちょっと前の初夏に持ち上がった、民主党のすごそうなプランも、政権が自民党に変わって立ち消えになったような状況です。【狼少年】的な状態といえるかもしれません。大学の教員個々にしてみれば、運営費交付金がぐおんぐおんと減らされて、国家公務員で安定していると思っていた給与も削られて、もうそれだけで改革は勘弁してほしい、という気持ちもあるかもしれません。でも。今、動いているのは、違うんですよ。ただ、そのすごさが多くの大学人に伝わってない気がします。

例えば、社説と同じ19付2面に「競争力会議 年俸・混合給与を導入 大学改革、中核に人事」を載せましたが、この産業競争力会議のレクは私も驚きでした。運営費交付金はこれまで、学生数や教員数に準じてどの大学も公平に扱う【基盤的経費】で、法人化後に減らしてきているといってもそれは各国立大共通のことでした。各大学(とくに理系)は各種の公募型研究助成など【競争的資金】を組み合わせることで、やる気のある大学はそれなりの収入となるけれど、競争力のない大学は収入が減るという仕組みでした。ところが。国の方向性を議論する産業競争力会議では、「運営費交付金だからって努力しない大学にも一律に配ってあげるのはおかしい」と主張しています。それで、「16年度からの中期目標期間スタートからは、努力の有無で交付金額を変えるべし」「現在は交付金のうち9割程度が規則的な割り当てとなっているが、この割合を大きく変えよ」といっています。これについて文科省は、比率は3割程度に引き上げようと検討を進めています! さらに先日の競争力会議では「7割くらいにすべきだ」といっているとのこと。のんびりしていられないって気になりますよね!

私の感想をお話ししますと…、「日本の研究・教育の裾野を広く支える国立大なのだから、基盤的経費として定番の部分はある程度、確保が必要だ。そうでないと地味な分野は壊滅してしまうから」というのが一つ。もう一つは、「交付金が年1兆1000億円にも上る中、国民の感情も考える必要がある。『国はひどい、と文句をいうだけで努力をしていない大学は、あまり支援したくない』というのも、一理あり」というところです。

文科省官僚の言葉で説得力があったのは、「大学が次世代を先取りするアイデアや構想を出す。そのために組織力を生かす。このことが、大学が社会に信頼される厳選だ」というものでした。ちなみに先の支援18大学には、競争的資金獲得は難しく一般に尻すぼみとされる教員養成学部で、改革を推進中の福井大も入っています。改革は、上から押しつけられてするものではありませんよね。大学人それぞれの問題意識を、国の方向性と摺り合わせて、解決に向けて主体的に進めていくのが改革と思います。関係者の皆様には、「大変なことが今、起こっている」と気づき、「自分たちはどう考え、どう進むべきか」の本格的な議論を展開してほしいと思います。法人化から10年目、団塊世代教員が続々と退職していく今こそ、その時なのです。

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2013年9月16日 (月)

台風とオリンピック

取材前後に時間があって、軽いおしゃべりでコミュニケーションを取る時のテーマとして、天候は第一候補の一つです。複数の人がいる場でじっと黙っているのは互いに(実は)苦しいので、「台風は大丈夫でしたか?」とこちらから話しかけるようにしています。この連休は関東直撃とのことで、「予定が台無しでした」と悲しむ相手も出てくるのではないでしょうか。自然の脅威は、大災害だけでなくても毎年ある台風でさえ、「忘れた頃にやってくる」。日本の夏ではいつ来てもおかしくないのに、遊びの予定をたてるときにはいっつも念頭にないものです。あ。遠出の日帰り出張など、仕事でももちろんです(遊びしか頭にないわけではありません、笑)。

それで思ったのは、「7年後に決まった東京のオリンピック時は、大丈夫だろうか」ということです。スポーツを管轄する文部科学省関係者としては、東京オリンピック決定は大ニュースです。招致決定の1週間前の概算要求レクでは、「新国立競技場の計画は、招致が実現できなくても予定通りですか」と質問が出ていたことを思い出しました。それだけに…。7月末から8月の開催に、大型台風が当たることも想定した準備になるんだな~、と気づきました。

オリンピックもまた、おしゃべりの話題の候補筆頭になってきますね。年長者であれば「1964年の東京オリンピックの時はどうでしたか?」と振れます。ちなみに団塊世代の大学教員の事例で私が聞いているのは…、都立高校出身のA先生は、開会式・閉会式の予行練習の要員で、B国の選手団の一人になって行進したそうな。C先生の場合、話題中の話題となったD競技の選手が恋人だったとか。けっこう楽しい話が出てきます。私はちなみにこの64年の生まれ。どうってことない偶然ですが、やっぱりなんとなく嬉しい。さて、明日の取材相手との会話は、台風でいくかオリンピックでいくか、どっちにしようかな?

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2013年9月 3日 (火)

概算の記事の流れ、復習編

民主党政権時代は「政治家主導だから、官僚は勝手にメディアに話すな」との指令が飛んでいて、概算の取材を官僚にすることがほとんどままなりませんでした。これはどのマスメディアにとっても同じだったので、「スクープ合戦に入る心配なし、夏をゆっくり休みましょう」という状況で、それはそれで歓迎でもありました(笑)。これに対して今夏は、自民党の政権復帰ということで、数年ぶりに【概算取材の夏】となりました。今年は私自身が文科省全体の担当になったこともあって、「うまく記事にできない」という夢にうなされる(笑)ことも含めて、フル回転でした。ですので、ブログ読者の皆様に「こんな流れなんだ」と理解して頂くのと、自分の復習を兼ねて、うちを含めメディア共通の流れをここに書くことにします。

社内からもプレッシャーがかかってくるのは、発表前の抜き、オリジナルのネタです。これは後述しますね。そして発表のちょっと前に、自民党本部で官庁から政治家へご説明。科学技術・イノベーションと、文部科学の2部会に出向きます。途中は「メディアは退席」といわれるも、最後には話が聞けるのではないかと各社、待っていましたが、2部会とも今回は×。「資料なし、レクなしか…」と一般紙記者さんと顔を見合わせます。その後、それぞれ当たれるところにあたって情報を引き出します。うちは、私の相棒にあたる後輩記者がなかなかの動きをしてくれて(ありがとう!)、翌日にそれなりの記事を出してくれました。 彼をみていて、「もうちょっとがんばってみよう」という粘りが少ない自身を反省です。ちなみに先日、身内に「そういえば佳世子さんは小学校の通信簿に、あきらめが早いってかかれていたよ」といわれ、ショックというか納得であったのですが(笑)。

その後、事前レクに流れ、閣議後大臣会見後に解禁。各メディアの読者にとって新しく関心が高い話を、追加取材のうえトピックスの記事にして出す一方、官庁まとめが各メディアで展開されます。今回は、自民党での説明日程&資料のメディアへの出し方(他省庁は配ってくれたらしい)、各省でのレクと解禁(内閣府はシバリなしだった)などばらばらだったので、「各省庁ずらっとならぶ」「1省庁だけの記事」「全部まとめての政府としての記事が中心」などいろいろな対応となりました。

単発のオリジナルニュースは、今回は参院選もあって調整が遅れているとのことで、お盆から発表までの間が【主戦場】に。他の場でつかんできたきっかけを活用したり、想像力を働かせたりして動き回ります。期待していた相手につれなくされたり、アタック先が違ったりもありますが、「あきらめが早い」佳世子さんもそれなりに粘ります(笑)。結果、4件を記事にできました。例えば8.23付の「産学で”頭脳循環”システム 企業に教員派遣 新規事業後押し ポスドクの就職促進も」なんて、うちの企業読者も関心を持つ、いい記事だったと思っています。

実はまだ、概算関係の記事は完了していません。まだおもしろいのがあるんですよ。これについては実際の記事掲載まで少々、お待ちくださいませ~。

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