新名称はキャッチーでないと
「『バイオコンビナート』構築へ 木材から化学品製造 バイオマス高付加価値化 製紙工場フル活用 神戸大・日本製紙など産学連携プロ」を、2014.1.8付に掲載しました。ポイントの一つは、バイオマスはかさばって集荷などにコストがかかるので、木材チップを原料とする既存の製紙工場設備を活用しようということ。もう一つのポイントが、バイオエタノールやそこからの汎用樹脂ではコスト競争に弱いので、各種の高付加価値の精密化学品を誘導するよう化学会社プラントを結びつけようということ。石油コンビナートならぬ【バイオコンビナート】を構築しようという、新年らしい夢のある、そしてまんざら夢で終わらない、ユニークな話だと自負しています。
私が執筆するときに注意を払ったのは、この【バイオコンビナート】という言葉を前面に出すことでした。取材の途中では【バイオリファイナリー】という言葉も使われていたのですが、これではイマイチ。リファイナリーって、石油化学に強い人しかわからないけれど、コンビナートならたいていの人に、なんとなくは通じるからです。記事の見出しは本社の整理部というセクションの社員が付けるんですよ。記者は基本、見出しを付けない(これ、一般の人にはあまり知られていないようです)。記者は、整理部に「これを見出しにとってね」と伝わるよう(イコール、読者にもポイントが伝わるよう)、原稿を書くのです。実際、バイオコンビナートという言葉が見出しになりましたが、果たして読者に注目してもらえたでしょうか。
新しいものやことでは、「どんな名前を付けるか」は重要ですよね。周囲に対して、「これ、何だろう?」と引き付けたり、「この名称ならぴったり」と理解や普及を進めたり、「これ、聞いたことがあるよ」とより広い対象にアピールしたりすることになるからです。取材でも「もうちょっと工夫した方がいいのに」と思うことが時々、あります。国の事業とか、大学のセンターとかでは、ほかのと混同しそうだったり、長かったりする名称がみられます。多方面に配慮した結果、コンパクトな言葉にはしきれないのだとは思いますが…。
例1、ベンチャーにて。取材した「ユニバーサルビュー」の例です。近視などの矯正用として、就寝時のみ装着する特殊コンタクトレンズを、主事業としています。これ、元々は米国の技術なので、そこで使われている「オルソケラトロジー」という言葉を当初、使っていました。でも、「それ何?」って感じですよね。初めての取材でしたから、「その名称、絶対変えたほうがいいですよ」とはいえず…。記事にするにあたっては少し迷いました。この名称を普及させるため、書いた方がいいかな、と。でも結局、使いませんでした。実は今回のブログ用に、正しい言葉をウエブ検索で調べたのですが、入力するのに「オルケ」って最初の三文字さえ間違えたほどです。それが最近、「ナイトレンズ」との名称を付けて使っていることが分かりました。それはいいですよね! その製品の特徴を表していて、覚えやすく、他と混同することもありません。同社の発展に、この名称は大きな役割を果たしてくれることでしょう。
例2、大学にて。東京大学が数年前、国際的には「トウダイ」は浸透していないことから、ユニバーサル・オブ・トウキョウの意味で「UT」を策定しました。ロゴもグッズに付けたりして展開したのですが、浸透しませんでした。外部デザイナーに頼んでも、うまくいかないものなのですね。
例3、企業にて。産学連携の連載で、とある主要業界トップへ初取材でした。「やっぱりこの業界に行かないでいてはまずいよね」という重要な業界です。少し前に統合してさらに巨大になった社なのですが、広報さんは「統合してから、別会社のように思われることがあって…、△だなんて呼び間違えられるんですよ」とぼやいていました。ええっ、△、それはひどい。という感じ。製造業で同社の新社名を知らない人はいないと思いますが、たしかに就職活動の学生にはわからないかもしれません。
話は戻って、バイオコンビナートの件。この取材、実は2年くらい前にキーパーソンと名刺交換をして、目を付けていたものです。チャンスがうまくつくれなかったため、今回ようやく、【思いを叶えた】感じです(笑)。私がいうのもなんですが、「ずいぶん時間があいてから、記事にとなることもあるんですね」(取材される方の代弁のつもり)。ほかの場面でもそう、名称がキャッチーだと相手の記憶に残って、数年後に新たな展開…なんてことが出てくる、かもしれません。
| 固定リンク | 0
コメント