「国立大、文系廃止」ってメディア過剰反応では?
「文部科学省が国立大文系学部の廃止を強要する」みたいな報道が多数、出ていますが、私はこれ、実態はそんなにおおごとではないと感じています。で、「どうしてこんなふうになっているのかしらん」と不思議に思っていました。それで国立大学法人支援課の担当者に、いきさつを確認。さらに某国立大学長の感じたところの話と合わせ、私が「これが本当のところでは?」という内容を、時系列的に振り返ってみます。
・まず5/28付に産経新聞に記事「文科省素案 再編促す 国立大の人文系縮小」が掲載。私も目にした時、気になった記事ではありました。27日に「国立大学法人評価委員会」で、第3期の国立大学中期目標期間(2016年度スタート)に求める方向性の通知(これは法的に定められている)内容の素案を出して、ここではメディアはあまり参加しておらず、産経の抜きのような形になったとのこと。記事は、このことに焦点を絞っているけれど、「素案全体としてはこんなことが採り上げられている」と示してもいて、リーズナブルな記事です。
・これが本決まりになっての各大学への通知が6/8にされました。この時に記者クラブでもリリース。ただし。この部分に触れたのは、「全体23頁のうち、1頁の中の4行」に過ぎません。以下のウエブサイトの6頁に載っています。http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/062/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/06/16/1358924_3_1.pdf
具体的には以下のこれだけです。~~~~~~~~~~~~~~~~
1)「ミッションの再定義」を踏まえた組織の見直し「ミッションの再定義」で明らかにされた各大学の強み・特色・社会的役割を踏まえた速やかな組織改革に努めることとする。
特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする。
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・ところが、翌日6/9付で各紙がこぞってこれを「ニュース」として採り上げました。朝日は10日付社説も即掲載です。私は「なになに、あの通知以外にすごい資料が出ていたの??」と焦りました。担当者は「資料はこれだけ。前回の評価委員会での配付資料も、2期と3期での通知内容比較の一覧表がずらっとあるだけですよ」「13年にミッションの再定義を3期に向けてやっていて、そこからの流れ。関係者にすれば別に、急に出てきた話ではない」とのこと。
・15日に国立大学協会の総会が開催。終了後の記者会見で、再任となった里見会長(東北大総長)ほかが出席。記者からのこの件についても答えます。でも。会見に出席した私の印象は「『交付金削減など、国立大が厳しい状況にあるが、これは困ったことだ』という以前からの感想と、どう違うの?」というものでした。だれも激怒なんてしていませんでしたよお。
総会では、一部に極端な激しい発言をする学長がいて。「どうしてあんなことをいうのか」と不思議に思う学長もいたようです。ですが、終了後にメディアがその学長に群がって。「メディアにしてみれば、発言を活用するのにもってこいの人なのだなと思った」といっていました。
・16日には下村大臣が直接、学長らに呼びかける会合が。ただしこの時は、国歌・国旗についての話がメディア取材でもメーン。こちらも「文科省の強要だ」という学長と、「文科省は、各大学で主体的に考えて対応してくれ、といっているだけ」という学長とある様子。文系問題よりはコチラの方が、文科省・大臣の意識は格段に強いと私は感じました。
・その後の一般紙の週刊誌風の記事では、やはり両方を会わせた形で「文科省の国立大学支配が強まる」という糾弾の論調となっています。これはまあ、この新聞の色が強く出ているということなのでしょうけれど…。
私は、「18歳人口って23年前の92年がピークで、あとはずっと減っていて、将来はピークの半分にまでなるんでしょう? 組織見直しは当たり前だよねえ」と思っています。というか、「今の状況で大学数、教員数などほとんど減っていないって、大丈夫なの? 短大含めて1132大学、短大除いても784大学ある(最新数値です)って、信じられないけれど…」と心配です。どこかを縮小しなくてはならないのなら、納税者が「税金を使っているわりに社会還元が少ない分野はちょっと…」とみるのは、仕方がないんじゃないかなあ。もちろん多様性は学術機関として大切だから、全大学からそういった分野・テーマをなくす、というのは避けなくてはいけない。けれども、ある程度は減るのが自然だし、各大学はそのことも考えつつ機能強化を進めて「メリハリある大学改革」を進めるのだろうと思っています。
なぜメディアが過剰反応なのか。それで思ったのは、「文教担当の記者の大半、社会人のマジョリティーが文系」というのがあるのかなと。自分が学んだ分野が、「役に立ってないから廃止」といわれるなんて耐え難い、と。私も、日刊工業新聞の理系出身記者ではなく、一般紙の文系記者だったとしたら…と仮定して、気持ちを想像するのでした。
この件、もう少し詳しく聞ける取材を思案していますので、様子がわかりましたらまたブログで紹介したいと思います。
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