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2015年7月

2015年7月26日 (日)

自作自演? 「客観報道」って難しい

日経新聞の英国フィナンシャル・タイムズ買収、すごいですね。実は私が最初に頭を巡らせたのは、この大ニュースそのものではありませんでした。というのは…。まず7.24付朝、自宅で同紙の見出し「日経、英FTを買収」と目に飛び込んできました。すごいと思うと同時に私が採った行動は、記事を熟読するのではなく、その一面トップのすぐ右に置かれている新聞題字を確認したことでした。「日本経済新聞」という題字を。そして「これ、自社の話を、自社の報道媒体で、ニュースとして流しているのね」と確認しました。

そして次に、朝日新聞を開きました。こちらは「日経が英FTを買収」という見出し。そしてその右には「朝日新聞」の題字です。記事の第一文に「…買収することで合意した、と発表した」と書いています。「発表なんだ~」。それで再び日経に戻って第一文をみると「日経新聞社は…英ピアソンと合意した」とあります。おおお。考えてみると当然ですが、書き方が、通常の記事と違って、新聞社によって大きく違う、と分かりました。

新聞記者の業界用語で、そんなに頻繁には使われませんが、「自作自演」というのがあります。記者が、そのニュースの組み立てに参加したうえで記事を書くというケースです。例えばA社とB社の事業を統合するのに、両社は主事業が違うためあまり親しくなくて、両社の幹部と行き来があるベテラン記者が仲介し、統合合意となれば記事(当然、スクープとして同記者の新聞社だけに掲載)を書く、といった形です。記者体験記のように「自作自演」と公表はしませんが、記事の内容としては何も問題ないですよね。今回のケースは、朝日にとっては通常と同様の「報道ニュース」ですが、日経は「自作自演型ニュース」といえましょうか。通常、新聞社自身の新たな活動の公表は、「社告」という体裁で自社媒体に載せます。例えば「日刊工業新聞社は新規事業として…を△月に始める」という記事です。今回は影響が大きいことから、社告ではなく、多メディアに向けた発表にしたのですね。

その日の夕刊の日経新聞。こちらはどう書いているかというと、海外メディアがどう報道したかです。ドイツ社と日経が競っていて、最後の10分間で勝敗が決したということを「FT電子版」で紹介したとのこと。なるほど、日経と対になっての自作自演。この内容なら、映画さながらの息を飲むおもしろさでしょう。その後には閣議後記者会見で「閣僚から期待する声が相次いだ」と書いています。「『…で喜ばしい』と述べた」とか、「『…』との期待感を示した」とかの文章です。ここでちょっと、あれっと思いました。

自作自演記事、否定しているのではないのですよ。自らの活動が社会的な大ニュースになるなんてすばらしいことです。ただ、それを自ら報道するとなると、通常は報道メディアが口を酸っぱくして行っている「客観報道」とは少し違うよね、と。「そのことを読者は注意しなくてはいけないよね」というのが、言いたいことです。閣僚の発言だって「経済報道の独占率が格段に上がることを、単純には喜べない」というのがあったら、他社は書いて自社は書かない、となるわけですから。

まあ、「真の客観報道」というのは無理なこと。多様な意見のどれを採り上げ、どれをカットするのか? いくら社内で議論し公平に判断するとしても、しょせんは人の手で行われているもの。情報の受け手はそのことを認識し、報道を含む情報を鵜呑みにせず、自ら受け止めてよく考える。それが成熟した民主的な社会のありようなのでしょう。

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2015年7月12日 (日)

日刊工業新聞、紙面刷新で文字も大きく

6月末に本紙が数十年ぶりの紙面刷新をしました。創刊100周年というのを機に、読者の皆様によりよい新聞を提供するのが狙いですが、製作システムや記者パソコンソフトなど社内のさまざまなものも大幅変更で同時期に連動させています。

一面レイアウトも大きく変わりました。題字の「日刊工業新聞」は右上に折りたたんで四角形に収められました。カラーはさわやかな水色です。おしゃれになった気がします。文字も大きくなり1行10字体制に。私が入社したその昔は15字ほどだったので、「大きくなったなあ」と感慨深いです。

私は小学校高学年から眼鏡常用、中学校からコンタクトレンズ常用と早かった(近視強度がきつい場合、コンタクトの方が進みにくいといわれたような覚えがある)のです。そのため、「将来、ひどく近視が進んで、文字が読めなくなったらどうしよう」と不安に思ったものでした。ところが。高校にもなると周囲の同級生も続々とコンタクト派に。なんだ、みんな目が悪くなってきたのね! とほっと安心。社会人になってからは新聞の文字が徐々に大きくなってきて「おおお~、心配することはなかった」状態に。文庫だって、一昔のものは文字が細かいけど、最近のは大きくなっただけでなくて、隙間だらけ。あっというまに読み終えられるラクチン・手軽なものになってきています。

日本は高齢化社会ですからね。若い人向きのおしゃれな店やグッズは小さい文字でを使っていますが、そのうち淘汰されることでしょう(笑)。これからも、さまざまな文章を楽しんでまいりましょう。

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2015年7月 5日 (日)

女子の理系進学率が5-7割?!

珍しく中等教育にかかわるチャンスがあり、「都市部の学力の高い中高一貫女子校では、理系選択率が5-7割ということが珍しくない」と聞いて驚きました。「世間一般の女子の理系選択率はもっとずっと低いはず。なぜ?!」という疑問から知ったことを、弊社紙面の2015.6.24付の一面コラム「産業春秋」で書きました。

小学校高学年から中学校にかけては、男女の発達段階に違いがあるとのこと。女子は言語系が、男子は抽象化概念が早く発達します。ので、男女共学で普通の教え方では、「男子は国語や英語が苦手、女子は数学や物理が苦手」になる傾向があるのだそうです。もちろん、男女など関係なく、どの分野も理解力が高く、何の配慮もいらない子もいます。でも一般的には男女の違いが傾向としてはあるのだと。これに対して男子校、女子校であれば、それぞれの苦手な部分も把握し、壁を乗り越える指導をし、個々人の能力を伸ばすことができる、という話です。子供のいない私には初耳でした。

東京都世田谷区の鴎友学園女子中学高等学校の場合、中2の数学クラスは通常の半分、20人で構成。立体図形の断面図を想像するのは苦手という子が多いので、実際に紙を使った模型で示す。思春期の女子は男子より不安感が強いため、わからないところを聞きに来たら、「いい質問だね」「ここまでは分かったんだ」と先生は生徒とコミュニケーションして、自信を持たせる指導が効果的。でも男子とこれをしようとすると、「で、答えは何?」とイライラさせてしまうのだとか。なるほど~。

実は先日、この学校の中3生のキャリア教育のお手伝いで、話をしに行きました。理系に進学するも新聞記者に、という変わったルートを採ったことが、「理系研究者でまっしぐら」の人よりいいかもしれない、と。同校で先生をしている大学時代の同級生が声をかけてくれたのです。彼女(リケジョ先生ですね)は学部時代の教育実習(私もやりました。中高の理科教員免許を持っています)で、リケジョ教育に目覚めたとのこと(今じゃないですよ。20数年前にという先見性)。事前打ち合わせもしっかりしたうえで用意したので、教育的目的のうえでぴったりの内容を提供できました。後日、生徒たちからのお礼を兼ねた「お手紙」を受け取って、感激してしまいました。

この年頃だと「自分は『これだ』というものがなくて心配だ」とか「どうしてもなりたい職業があるけれど、とても難しいといわれていて不安です」とか、思いはさまざま。学びが生活の重要な部分を占めているだけに、得意・不得意科目への気持ちもあふれています。その中で、私の話したことのうち、「これが好き、という気持ちを大事にするのは大切。でも『これしかない』『これだけ学べばいい』と絞ってはいけない。自分の好きなことも、周囲の環境もどう変わるか分からないから。すべての学びが自分の将来につながってくる」という内容が、けっこう響いた様子です。私が、「子供のころは国語が一番、得意だったが、中学生のころ化学反応の仕組みに興味を持った」「化学で修士までいったが進路は、研究者ではなく科学技術記者にした」というのとつながったためでしょう。ほかに、「収入とは、職業を通して社会に役立つことをしたことに対する謝礼」とか、「周囲がいう『いい会社、いい職業』ではなく、『自分に合った』仕事を探す」とか、「困難にあたっても、なんとかして解決しようとする『突破力』が大切」などが印象に残ったようです。

最初、届いた大量の「お手紙」におののいた私でしたが、彼女たちのきちんとした文章や文字(お手紙を書く、という形で国語力やマナーを身に付ける教育手法になっているのですね)や、素直な反応に、いとおしさ爆発(笑)状態です。「今度、日刊工業新聞を買ってみたいと思います」といった表現もいくつか見られて、「んまああ、大人の心をくすぐるコミュニケーション力まで優れているわ」って驚きです。

逆説的に、「自分に子供、とくに女の子がいなくてよかった」と思いました。だってもしいたら、かわいくてかわいくて、教育熱心になりすぎる可能性が大だから(笑)。いつもと違う世界でありながら、本業も「さらにがんばろう」と思わせられる、素敵な体験でした。

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