「他に何か言ってみろ」 国大協総会から
国立大学協会の総会、1年で一番の中心となる6月のものに出席しました。紹介するこの時の出来事は、「ブログでも書いたら、関係者は嫌がるかな」と迷っていたものです。が、私としては読者に対してプラスの影響を与えるものだと思って、掲載まで少し間をあけたうえで執筆することにしました。この時はメディアの参加も多くて、「書いちゃダメ」と言われる筋合いのものではない(公表案件に相当)ということで、ご紹介します。
大学改革の議論の中盤で、文科省などに求めを出す文書についてだった、と思います。山極会長(京都大学総長)の説明に対して、某中小規模大学のA学長が、「そんなことより前提としてもっと重要な、運営費交付金削減に対する抗議を、会長らにはもっとしっかりしてほしい」といった発言しました。それに対して会長は「もちろん、いい続けている。しかしそれだけでは(交付金削減は今に始まったことではないし)動かない。(官庁や企業側有識者などは)『また交付金削減に対するクレームか(と呆れて冷たい視線をよこすだけ)。もっと他に何か言ってみろ』という反応だ。それに…」と返しました。
そうなんですよ! 私はこの発言にいたく賛同しました。国立大が苦しいのは分かる。あちこち長年、取材してきたから。でも法人化後からこれだけの年数がたった状態で、現状をなんとか改善しないと、と大勢が必死になっている。それなのに不平不満を言い続けるだけでは、ねえ。現場の教員には「法人化前の状況に戻すべきだ」っていう人もいるけれど、そんなことが本当にできはしないのに、ズレてるって気がします。それより他に何か、自ら斬新な打開のアイデアを出して国に迫るとか、するべきなんじゃない? という気に、あちこち長年、取材してきた私も思うのです。山極会長だって上から下からたたかれて、文科省の役人だって上から下からたたかれて、A先生をはじめとする各大学幹部だってそうなはずで皆、状況は同じなんです。たたかれないのは財務省だけかと思っていたけれど、トップがセクハラであんなになっちゃって、それもすごいけれど…。
で、その両者の間で口げんかみたいになりエキサイトして、それがすごかったのです。途中、国大協幹部のB先生が「あの~」と口を挟んでみるも、びしっと”却下”という雰囲気。再びB先生が「すみませんが」とトライするも、追い払われる感じ。B先生はやり手で知られているのに、この場ではどうも力が発揮できません(笑)。そこへ同じく幹部のC先生が「ちょっとよいでしょうか」と。するとなんとこちらに道が開かれました。「山極会長はいろいろな場面で心を砕いていますよ。例えば…」という具合で、おだやかにゆっくりと話されたのがよかったのでしょう、場が穏やかになりました。A先生もおそらく、「我々学長が感じるのと同じような板挟みを、山極会長も感じているのか」と納得したのでしょう。殺気立っていた場がようやく収束したのでした。C先生に感激です~。
さらに感動したのは、山極会長のその後のさばさばした対応でした。国大協で今回初めて、国立大学長のほぼ会員が出席する懇親会に、メディア人を入れてくれまして。それ自体、私にとっては「きゃああ、ごぶさたしている地方大学のD先生に挨拶して、E先生に例の件がどうなったかうかがって、なんと嬉しいチャンス」というものでした。その懇親会の山極会長の挨拶で、なんだったか忘れたけど、先のバトルにさらっと言及して、会場の笑いを取ったのです。素敵~。山極先生を慕う人が多い人柄を実感しました。
本当のことをいうとそれまで、「国大協トップまでしながら、一般紙にゴリラの話で出ているなんて、余力があるのかしらん。ゴリラ研究が本当に好きで、その意味で基礎・地味部門も含めて大学の研究者の気持ちがわかる、ということは理解できるけれど」と思っていたんですよ。でも見直しました。ゴリラの取材を受けてしまうのもまた、よき人柄ゆえなんでしょう。そして国大協のトップとして、やっぱりふさわしい人なのだなと思ったのでした。
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