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2022年8月20日 (土)

「博士号でも取ってみるかな」と思ったら

初夏に新型コロナ一息のタイミングで、同世代の男女それぞれとおしゃべりする中で、同じ話題が出てきて驚きました。それが「大学院の博士課程ってどんな感じ?」という質問で、雰囲気としては「博士号を考えようかと思っているのだけど」というものでした。一人は美術の中学校教諭、一人は音楽療法士です。1人目の時は「そうか、仕事が一段落する60歳を考えて、選択肢の一つに考える人がいるんだ~」と思っただけでした。が、あまり間を置かず2人目に声をかけられて焦りました。「この感じでは、博士号でも取ってみるかな、と罠にはまる人が続出するのでは!?」と思ったためです。若い人でも新型コロナを機に、考えるケースが出てきていることでしょう。私からのメッセージをここでお伝えします。

日本では学部の学士課程って、それほど必死にならなくても普通、4年で卒業できますよね? その経験があるから「大学院の博士課程って、社会人経験がそれなりにあると、修士課程を修了していなくても入学できるんだ~」(これは正しい)に続いて、「標準修了年限の3年を費やせば、私も博士号が取得できるかな~」と気楽に考えるのだと思います。実際は違います。【博士号取得は、プロの研究者でない場合は非常に難しい】ということを、まず知る必要があります!

理系だと専門がはっきりしていて、博士課程修了か、論文博士によって博士号を取得する人が少なくありません。研究者もメーカーなどかなりいて、業務時間内の活動が博士研究につなげられるのが後押しになります。対しては文系はかなりハードルが高いです。中堅の大学や短大だと、教員でも博士号を持っていない人が散見されるほど、取りにくい。言い方を変えると「容易に博士号を出してくれない」、そういう文化なのです。私の仕事関係の知人だと、技術経営(MOT)領域を狙うことが多いのですが、20年前に(学術の世界はこのくらいでは変わらないので、今も通じるはず)東大教養学部のMOT系教授と面談(もしこの研究室に入ったとしたら、どのような研究を進められそうか、の情報交換)に行って言われました。「僕のところには過去、40人の社会人が相談に来た。入学したのが20人で、博士号を採れたのは4人」(数字はうろおぼえですが、ほぼこれくらい)というものでした。厳しさがわかるのではないでしょうか。

もっとも難易度は、研究分野・大学・研究科・指導教員によって大きく異なります。例えば医学系は容易なんだと思います。社会人博士の半分は医学系ですから。数例の特殊な患者症例を見比べただけ、みたいな専門論文も目にしますし。それからスポーツ科学も難しくないのでしょう。新しい分野なのに、この領域で博士号を持つ元スポーツ選手が目につきますから。

私の場合は産学連携という新分野の現役記者というのが、活動推進の上で大きな力になりました。「これまで言われていないことだが、こういう事実があるのではないか。それを科学的手法で明らかにできるのではないか」という「仮説」を持って、だいたい8大学8教授と面談に回りました。社会科学系や著名大学の教員は「研究は一人でするものですからね。できがよければ学位になるでしょ」的な冷たさを実感し、波長の合った東京農工大学のMOT系の先生(MOT系博士を出したい、と燃えていた)を選びました。活動(アンケートやモデルの調査分析)は、取材⇒日刊工業に掲載⇒簡単なデータ分析⇒査読論文執筆 という形で、つまり業務と研究を完全に重ねて取り組むよう設計しました。現役の社会人はここ(業務と研究の相乗効果)が難しいところです。社会科学系だと「じゃ、英語の論文100本を読んで」といった指示から始まるのと合わせ、時間がとても捻出できないのですよ。

博士研究は「研究」で、「勉強」ではありません。これまでに見出されていない新たな知を探し出し、科学的とされるその分野の学術作法に乗っ取って証明し、査読を受けた論文にする。これを3件ほど実現して初めて、「博士論文」にまとめる筋道が浮かんできます。シニアの社会人が有利なのは時間だけです。のんびりしていたら自分や家族に加え、指導教員にも何があるかわからないですし。私は3年+αで終えられるよう、その期間中の土日すべてを使うくらいの覚悟で臨みました。理工系のストレート学生(下から進学した、社会人経験のない学生)でも、「ほぼ毎日、研究室で活動し、何百万円もの学費を払ったのに、博士号は取れずに【単位取得満期退学】で終わった」というケースがまま、ありますからね。

ということで、「博士号でも取ってみるかな」と思った人に向けては、まずこういった状況をしっかり、調べてくださいねとお伝えしたいです。その上で、「これだけエネルギーをかけてする価値が、博士号取得にあるのですか? 取れない可能性も大きいのに」と問いかけます。返事が「自分の現在までのキャリアが、博士研究の上で大いに強みとなり、博士号取得がその先のキャリアに必ずプラスだと思う」というのなら、挑戦する価値があると思います。そうでない場合は、甘い言葉(確約ないまま、「うちで博士号をとってみたら」と声をかける教員もいる)につられると危ないですよ。これが私からのメッセージです。

最後に、写真は私の博士課程の修了証明書です。_2526 こんなものがあったんですね(笑)。卒業証書にあたるきちんとした博士号授与記は奥にしまっていて、引き出すのが面倒だったので、こちらで代替します。一部、伏せようと思ったらうまくいかず、逆に白抜きで目立たせてしまいました(笑)。そのうち、社会人博士学生の活動ノウハウを、ブログで書いていきましょうかね。読み手ニーズの強さと、自分の負担(資料は段ボール箱に入れたまま)と見比べて、思案してみましょうか。



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